会社分割の不動産は簿価?時価?― 組織再編で保有マンションの評価を外すリスク
会社分割・合併で不動産は簿価と時価のどちらで移すのか。適格・非適格の違い、合併比率や株式買取請求で時価が問われる場面、時価を外した場合の課税・株主間の不公平を試算で示し、鑑定評価の使いどころを解説します。

「会社分割で不動産を移すとき、時価で評価し直す必要はあるのか。簿価のままでよいのではないか」――グループ会社の整理や事業承継に向けた組織再編を検討する経営者様、顧問税理士の先生から、このようなご質問をいただきます。とくに法人名義で都心のタワーマンションや高級マンションを保有している場合、取得から年数が経ち、帳簿価額と市場価格が大きく離れているケースが少なくありません。
結論から申し上げると、会社分割・合併で不動産をいくらで移したことになるかは、税務上の「適格」か「非適格」かで分かれます。適格組織再編なら帳簿価額(簿価)での引継ぎが原則ですが、非適格なら時価で譲渡したものとして課税されます。そして適格であっても、分割比率・合併比率の算定や、反対株主の株式買取請求への対応では、不動産の時価が株主間の公平を左右します。つまり「簿価で済むから時価は関係ない」とは言えないのです。
本記事では、組織再編で不動産の時価が問われる場面を整理し、時価を外した場合に生じる課税上・株主間のリスクを数値例で示したうえで、私たち鑑定士が鑑定評価をどの段階で使うべきかを解説します。
会社分割・合併で不動産は簿価か時価か
適格組織再編は簿価引継ぎが原則
法人税法では、一定の要件(支配関係・継続保有・事業の移転など)を満たす組織再編を「適格組織再編(課税の繰延べが認められる再編)」と位置づけています。適格合併と適格分割型分割では、移転資産は帳簿価額で引き継いだものとして所得を計算し(法人税法62条の2)、適格分社型分割では帳簿価額で譲渡したものとされます(同法62条の3)。含み益のあるマンションを移しても、その時点では譲渡益が課税されません。
非適格なら時価で譲渡したものとして課税
適格要件を満たさない「非適格」の合併・分割では、移転資産は時価で譲渡したものとして扱われます(法人税法62条)。取得時より大きく値上がりした都心のマンションを移転すれば、その含み益が移転元の法人で一度に課税されます。さらに移転を受ける側では、交付した対価と時価純資産価額との差額が資産調整勘定(いわゆる税務上ののれん)として計上される仕組みがあり(同法62条の8)、ここでも不動産の時価が計算の前提になります。
| 区分 | 不動産の移転価額 | 移転時の譲渡損益 | 主な根拠 |
|---|---|---|---|
| 適格合併・適格分割型分割 | 簿価で引継ぎ | 生じない | 法人税法62条の2 |
| 適格分社型分割 | 簿価で譲渡 | 生じない | 法人税法62条の3 |
| 非適格合併・非適格分割 | 時価で譲渡 | 時価と簿価の差額 | 法人税法62条 |
適格でも時価が必要になる3つの場面
適格組織再編であっても、不動産の時価が不要になるわけではありません。第一に、合併比率・分割比率(どちらの株主に何株を割り当てるか)は、各社の企業価値から決まります。含み益の大きい不動産を持つ会社の価値を簿価で測れば、その会社の株主が不利になります。第二に、再編に反対する株主は、会社に対して「公正な価格」での株式買取りを請求できます(会社法785条・797条・806条)。第三に、会計上は、企業結合会計基準により「取得」と判定される再編では、受け入れた資産を時価で計上します。いずれも不動産の時価が根拠資料として問われる場面です。
なお、どの再編が適格要件を満たすか、課税関係がどうなるかは個別事情による税務判断です。必ず顧問税理士にご確認ください。
組織再編で不動産の時価を外すとどうなるか
ここでは、時価の置き方を誤った場合の影響を「想定されるケース」で試算します(税効果などは簡略化しています)。
想定されるケース1:非適格分割で時価を低く置いた場合
A社が保有する港区のタワーマンション1室(簿価1億1,000万円)を、非適格の会社分割で別会社へ移転するとします。社内では「購入時の価格に近い1億6,000万円」を時価として処理しましたが、同じ棟の同程度の階層・向きの成約事例から見た市場価格は2億4,000万円程度でした。
- 社内処理での譲渡益:1億6,000万円 − 1億1,000万円 = 5,000万円
- 適正な時価での譲渡益:2億4,000万円 − 1億1,000万円 = 1億3,000万円
- 差額:8,000万円の譲渡益が申告から漏れる計算
税務調査で時価が否認されれば、この差額に対する法人税の追徴に加え、過少申告加算税・延滞税の負担が生じ得ます。移転時の時価を裏づける資料がなければ、反論は困難です。
想定されるケース2:合併比率を簿価で決めた場合の株主間の不公平
次に、X社とY社が合併するケースです。X社は純資産の簿価が3億円で、その中に簿価1億円・時価2億5,000万円のタワーマンションを含みます。Y社は純資産4億5,000万円で、含み益のある資産はありません。
| 項目 | X社 | Y社 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 簿価ベースの純資産 | 3億円 | 4億5,000万円 | 7億5,000万円 |
| 時価ベースの純資産 | 4億5,000万円 | 4億5,000万円 | 9億円 |
| 簿価で決めた持分比率 | 40% | 60% | 100% |
| 時価で決めた持分比率 | 50% | 50% | 100% |
合併後の会社の時価純資産9億円に対して、X社の株主は本来50%(4億5,000万円相当)を受け取るべきところ、簿価で比率を決めると40%(3億6,000万円相当)にとどまります。差額9,000万円相当の価値がY社の株主へ移る計算です。親族間で株主が分かれている同族会社では、この不公平が後の相続や事業承継で紛争の火種になります。
保有マンションの時価が簿価や税務上の評価額とずれる理由
長期保有で含み益が膨らむ
都心のマンション価格は、この10年あまりで大きく上昇しました。国土交通省の不動産価格指数(住宅)でも、全国のマンション(区分所有)の指数は2010年平均を100として、2026年公表分では220前後の水準にあります。10年以上前に取得した物件では、減価償却で簿価が下がる一方、市場価格は上がっているため、簿価と時価の差が取得価格を上回ることも珍しくありません。
タワーマンションは住戸ごとの個別性が大きい
同じ棟でも、階層・眺望・方位・専有面積で単価は大きく変わります。区の平均単価や同じ棟の「平均的な成約単価」を当てはめるだけでは、高層階の眺望住戸を過小評価しがちです。とくに港区・千代田区・渋谷区の超高級住宅地では、実勢の単価が区平均の数倍になることもあり、区平均の流用は禁物です。
固定資産税評価額・相続税評価額は時価ではない
不動産取得税や登録免許税は固定資産税評価額を課税標準とし、相続税評価額は財産評価基本通達に基づく課税上の評価です。いずれも市場で成立する価格とは目的も水準も異なり、組織再編の時価としてそのまま使うことはできません。なお、会社分割による不動産の取得は、一定の要件を満たすと不動産取得税が非課税になります(地方税法73条の7第2号、同法施行令37条の14)。この要件の判定も税理士・司法書士と確認しながら進める事項です。
組織再編で不動産鑑定を使うべきタイミング
再編スキームを決める前に時価を把握する
私たち鑑定士が強くおすすめするのは、再編の方式や比率を決める「前」に不動産の時価を把握しておくことです。非適格になった場合の課税額、適格の場合の比率の公平性は、いずれも不動産の時価が分からなければ試算できません。後から根拠を後づけするのではなく、時価を起点にスキームを比較するほうが、税務調査や株主への説明にも一貫性が生まれます。
不動産鑑定評価基準に則った評価の強み
不動産鑑定評価基準は、取引事例比較法・収益還元法・原価法を併用し、それぞれの試算価格を調整して鑑定評価額を決定する手順を求めています。タワーマンションなら、同じ棟・近隣棟の成約事例から階層・眺望の補正を行い、賃貸した場合の収益価格とも照らし合わせます。こうした手順を経た鑑定評価書は、第三者が検証できる形で時価を示せる点で、社内試算や仲介会社の査定書とは説明力が違うと断言します。
鑑定評価書と価格等調査報告書の使い分け
スキーム検討の初期段階で「おおよその時価」を知りたいだけなら、目的・範囲を限定した価格等調査報告書(不動産鑑定評価基準に則らない価格調査)で足ります。一方、税務申告の根拠、合併比率の算定資料、株主への説明に使う段階では、正式な鑑定評価書を備えておくのが安全です。マンション1室の鑑定評価書は40万円〜、価格等調査報告書は15万円〜(いずれも税別)で、複数の物件をまとめて評価する場合は1物件あたり+10万円〜が目安です。詳しくは料金のご案内をご覧ください。
資産管理会社への移転や同族間の売買と組み合わせる再編では、資産管理会社への不動産移転、時価はいくら?や同族間売買・親族間売買のマンション時価もあわせてご覧ください。決算での時価把握については法人保有レジデンスの減損テストで解説しています。
まとめ
会社分割・合併で不動産の評価が簿価で済むか時価が必要かは適格・非適格で分かれますが、どちらの場合でも保有マンションの時価を正しく把握しておくことが、課税と株主間の公平を守る出発点です。
要点を振り返ります。
- 適格組織再編は簿価引継ぎが原則、非適格なら時価で譲渡したものとして含み益が課税される
- 適格でも、合併比率・分割比率、反対株主の株式買取請求、企業結合会計では不動産の時価が問われる
- 時価を低く置けば非適格分割で申告漏れのリスク、簿価で比率を決めれば株主間で数千万円単位の不公平が生じ得る
- 固定資産税評価額・相続税評価額・区平均単価は組織再編の時価の代わりにならない
- 再編の方式や比率を決める前に、鑑定評価書または価格等調査報告書で時価を把握しておく
法人名義で都心の高級マンション・タワーマンションを保有し、会社分割や合併、グループ再編を検討している企業経営者様、顧問先の組織再編を支援する税理士の先生にこそ、スキーム決定前の時価把握をおすすめします。課税関係や適格要件の判断は顧問税理士にご確認いただき、その前提となる不動産の時価は当事務所がお引き受けします。
組織再編に伴う高級マンション・タワーマンションの時価評価をご検討の方は、ぜひ一度ご相談ください。初回の無料相談で、評価の進め方と概算費用をご案内します。
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
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