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不動産の囲い込みを見抜く3つのサイン ― 高級マンションの売却が長期化したときの確かめ方

売却が長期化したとき、原因は価格とは限りません。2025年1月から囲い込みは宅地建物取引業法第65条第1項の指示処分の対象です。レインズの取引状況、販売活動報告の中身、内覧数という3つの観察可能な指標から、価格の問題なのか流通の問題なのかを切り分ける方法を鑑定士が整理します。

著者:吉田 健人·読了 約14
不動産の囲い込みを見抜く3つのサイン ― 高級マンションの売却が長期化したときの確かめ方

売り出してから3か月。内覧はわずか数件で、購入申込みには至らない。担当者からは「今は動きが鈍い時期です」「価格を少し下げましょう」と説明される。都心の高級マンションを売却中の方から、このようなお話を伺うことがあります。

価格が高すぎるのかもしれません。しかし、価格ではなく流通の側に原因があることもあります。その一つが「囲い込み」です。売却を任せた仲介会社が、他社からの問い合わせを事実上遮断し、自社で買主を見つけるまで物件を市場から隠してしまう行為を指します。

2025年1月、この囲い込みは宅地建物取引業法上の処分対象として明確に位置づけられました。同時に、売主自身が手元で異常を確かめるための材料も増えています。本記事では、価格の妥当性を第三者の立場から検証する私たち鑑定士の視点で、観察可能な指標から「価格の問題」と「流通の問題」を切り分ける方法を整理します。なお、個別の法的手続きや税務の判断については弁護士・税理士にご確認ください。

囲い込みはなぜ起きるのか

両手仲介という報酬構造

不動産の売買仲介では、売主側の仲介会社と買主側の仲介会社が別であれば、それぞれが自分の依頼者からのみ報酬を受け取ります。ところが、売主側の会社が買主も自社で見つければ、売主と買主の双方から報酬を受け取れます。これが「両手仲介」(一社が売主・買主の双方を仲介し、双方から報酬を受け取る形態)です。

両手仲介そのものは違法ではありません。問題になるのは、両手を狙うあまり、他社が連れてくる買主を締め出す場合です。他社から「内覧させてほしい」と連絡が来たときに、事実に反して「商談中です」「既に申込みが入っています」と回答して断る。これが囲い込みです。

金額で見ると動機の大きさがわかります。売買代金2億円の住戸であれば、仲介報酬の上限は売買代金の3%に6万円を加えた606万円(消費税別)です。片手なら606万円、両手なら1,212万円。1件あたりの差額は600万円を超えます。高額物件ほど動機が強く働く構造になっていると言わざるを得ません。

売主が失うもの

囲い込まれた物件は、買主候補の母集団が「その1社が抱える顧客」にまで縮みます。都心の高級マンションはもともと買主層が限られるため、母集団が狭まる影響は一般的な住戸より深刻です。

結果として起きるのは、売却期間の長期化と、その果ての値下げです。「反応がないので下げましょう」という提案が、市場全体の評価ではなく1社の顧客リストの反応にもとづくものだったとしたら、売主は本来不要だったはずの値下げを受け入れることになります。

2025年1月、指示処分の対象に

2024年に宅地建物取引業法施行規則および「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」が改正され、2025年1月1日から施行されています。国土交通省の改正内容によれば、専任媒介契約・専属専任媒介契約にもとづいて指定流通機構(レインズ。国土交通大臣が指定する不動産情報交換ネットワーク)に登録した物件について、当該物件に係る取引の申込みの受付に関する状況等の登録内容が事実と異なるときは、宅地建物取引業法第65条第1項の指示処分の対象となります。

ここで重要なのは「事実と異なるとき」という基準です。実際には申込みが入っていないのに「申込みあり」と登録していれば、それ自体が処分事由になります。売主が確かめるべき点も、まさにここに集約されます。

サイン1 ― レインズの取引状況が実態と合っているか

3つのステータスの意味

レインズには取引状況(ステータス)を登録する機能があり、表示は次の3種類です。

ステータス意味他社からの紹介依頼
公開中通常に販売活動中原則として拒否できない
書面による購入申込みあり書面での申込みを受領済み原則として拒否できる
売主都合等により一時紹介停止中売主の意向・了解にもとづく停止停止中

「書面による購入申込みあり」は、口頭の打診や「検討中のお客様がいる」という段階では該当しません。書面での申込みを受けていることが前提です。また「売主都合等により一時紹介停止中」は、売主の意向を受けて、または売主の了解を得たうえで表示するものです。売主本人に心当たりがないのにこの表示になっているなら、それは説明を求めるべき状態です。

売主自身がログインして確認できる

専任媒介契約・専属専任媒介契約を結ぶと、宅地建物取引業者はレインズに登録し、その登録を証する書面を遅滞なく依頼者に引き渡さなければなりません(宅地建物取引業法第34条の2第6項)。この登録証明書には、売却依頼主用の確認画面のURLと、物件ごとに付与されたIDおよびパスワードが記載されています。

つまり売主は、自分の物件がどのステータスで、どのような価格・面積・間取りで登録されているかを、仲介会社を通さずに自分の目で確認できます。まずは月に一度、この画面を開く習慣を持ってください。ここで実態と異なるステータスが続いていれば、それは最も直接的なサインです。

登録そのものが遅れていないか

登録の期限も法定されています。専任媒介契約は契約締結の日から7日以内、専属専任媒介契約は5日以内(いずれも休業日を除く)に登録しなければなりません(宅地建物取引業法第34条の2第5項、同法施行規則第15条の10)。

一方、一般媒介契約にはこの登録義務がありません。売主が明示的に求めない限り登録されない場合もあります。どの媒介契約を結んでいるかによって、確認できる範囲が変わることは押さえておく必要があります。登録証明書が渡されない、請求してもなかなか出てこないという場合は、その時点で説明を求めてよい場面です。

サイン2 ― 販売活動報告が「情報」になっているか

報告は法律上の義務

専任媒介契約では2週間に1回以上、専属専任媒介契約では1週間に1回以上、業務の処理状況を依頼者に報告する義務があります(宅地建物取引業法第34条の2第9項)。さらに同条第8項は、媒介契約の目的物である宅地建物の売買または交換の申込みがあったときは、遅滞なくその旨を依頼者に報告しなければならないと定めています。他社経由の申込みを依頼者に伝えないまま処理する行為への歯止めです。

義務として定められている以上、報告は「受け取るもの」ではなく「確かめるもの」です。

報告書に対して投げる3つの質問

報告書が「今週の反響:3件」だけで終わっているなら、それは情報として不十分です。次の3点を尋ねてください。

  1. 問い合わせのうち、他社の仲介会社からのものは何件か
  2. そのうち内覧に至らなかったものは何件で、その理由は何か
  3. レインズの取引状況は現在どのステータスで登録されているか

囲い込みが起きている場合、他社からの問い合わせ件数が不自然に少ない、あるいは「他社からの問い合わせは記録していない」という回答になりがちです。記録がないこと自体が、確かめるべきサインだと考えてください。

広告の出方を自分で見る

不動産ポータルサイトで自分の物件を検索し、掲載しているのが自社1社だけという状態が続いていないかを見ます。囲い込みでは他社が広告を出せないため、掲載が自社に偏ります。

ただし、高級マンションでは売主の意向であえて広告を絞る非公開販売の形もありますから、これは単独では判断材料になりません。次に述べる内覧数、そしてレインズのステータスと合わせて読む指標です。

サイン3 ― 内覧数が価格で説明できるか

想定されるケース ― 3か月で内覧2件、1,000万円の値下げ提案

都心の2億円台の住戸を想定します。売出しから3か月が経過し、内覧は2件、購入申込みはゼロ。仲介会社からは「価格が市場に合っていない」として1,000万円の値下げを提案されました。

この状況をどう読むか。判断を分けるのは、内覧が少ない理由が「価格」にあるのか「露出」にあるのかです。

観察される状態価格が原因なら流通が原因なら
他社からの問い合わせ一定数あり件数が極端に少ない
内覧後の反応「価格が合わない」が中心そもそも内覧が起きない
レインズの取引状況公開中のまま申込みあり・停止中が続く
広告の掲載元複数社自社のみ

価格が原因であれば、内覧は起きているが成約に至らない、という形になります。内覧そのものが起きていないなら、価格の前に露出を疑うべきです。この切り分けをしないまま値下げに応じることは、露出の問題を価格で解決しようとすることにほかなりません。

「少ないのが普通」も同時に成り立つ

一方で、億単位の住戸は買主の絶対数が少なく、月に数件という内覧水準は珍しいことではありません。だからこそ「内覧が少ない=囲い込み」とは断定できません。

ここで必要になるのが比較の基準です。同じマンション内の他住戸や近隣の同格物件が、同じ期間にどれだけ動いているか。売出価格に対して成約価格がどの程度の水準に落ち着いているか。この比較なしに、内覧数だけで結論を出すことはできません。公開されている相場情報の読み方については、マンションの成約価格と売出価格の違いとは?で整理しています。

独立した価格の物差しを持つ

査定額と鑑定評価額は目的が違う

仲介会社の査定額は、その会社が「売れると考える価格」です。媒介契約を獲得するために高めに出ることも、早期に成約させるために低めに出ることもあります。どちらも不正ではなく、査定が営業活動の一部である以上、避けがたい性質だと言えます。

これに対して不動産鑑定評価は、不動産鑑定評価基準にもとづき、対象不動産について市場で成立すると認められる価格(正常価格)を、第三者の立場から求めるものです。依頼者の希望にも、受任の都合にも左右されません。両者の違いは仲介査定と不動産鑑定はどう違う?で詳しく述べています。

価格が妥当なら、原因は流通側に絞れる

囲い込みの厄介さは、「売れないのは価格のせいだ」という説明と外形上の区別がつかない点にあります。独立した価格の物差しがあれば、ここで切り分けが可能になります。

鑑定評価額が売出価格と大きく離れていないのであれば、価格は市場と整合していることになります。それでも動かないのであれば、原因は価格ではなく流通側にある可能性が高い。そう判断できれば、値下げに応じる前に、媒介契約の見直しや契約期間満了時の切り替えという選択肢を具体的に検討できます。断言します。値下げの判断は、価格の妥当性を独立に確かめてから行うべきです。売出価格そのものの決め方については億ションの売却、適正価格はどう見極める?も併せてご覧ください。

目的に応じた書面の使い分け

裁判所や税務署に提出する予定がなく、売主自身の意思決定の材料として価格の水準を把握したいという場合には、価格等調査報告書という選択肢があります。不動産鑑定評価基準に則らない調査であることを明示したうえで、価格の水準を書面で示すものです。調停や訴訟での利用、税務署への提出が視野に入るのであれば、鑑定評価書を選ぶことになります。

なお、囲い込みが疑われる場合の申告先は、免許を出している国土交通省地方整備局または都道府県の宅地建物取引業担当部署です。レインズの登録内容そのものについては、東日本不動産流通機構など該当地域の指定流通機構が窓口になります。損害賠償請求など具体的な法的手続きの要否については、弁護士にご確認ください。

まとめ

高級マンションの売却が長期化したとき、原因は価格とは限りません。レインズの取引状況、販売活動報告の中身、内覧数という3つの観察可能な指標を突き合わせれば、価格の問題なのか流通の問題なのかを、売主自身がかなりの程度まで切り分けられます。

要点を振り返ります。

  • 両手仲介そのものは適法だが、他社を締め出す囲い込みは2025年1月から宅地建物取引業法第65条第1項の指示処分の対象になった
  • レインズの取引状況は3種類。登録証明書に記載されたIDとパスワードで、売主自身がログインして確認できる
  • 販売活動報告は専任で2週間に1回以上、専属専任で1週間に1回以上が法定。他社からの問い合わせ件数を必ず尋ねる
  • 内覧そのものが起きていないのに値下げを提案されたら、価格ではなく露出を疑う
  • 独立した価格の物差しを持てば、「価格のせい」という説明の当否を自分で検証できる

億単位の住戸を売却される所有者の方、相続や離婚で期限を区切って売却を進める必要がある方にとって、根拠のない値下げは取り返しがつきません。判断を下す前に、価格そのものを第三者の目で確かめる価値は十分にあります。

都心の高級マンション・タワーマンションについて、提示された価格が妥当なのか、値下げに応じるべきなのかをお迷いの方は、初回無料相談をご利用ください。私たち鑑定士が、鑑定評価の視点から判断の物差しをお示しします。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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