3000万円控除はタワーマンション売却で使える?― 買換え特例との違いと手取り試算
自宅のタワーマンション売却で3,000万円特別控除は使えるのか。買換え特例の「売却代金1億円以下」要件、併用不可や住宅ローン控除との関係を整理し、売却価格1億4,000万円の想定ケースで特例あり・なしの手取りの差を試算します。

「住んでいたマンションを売るなら、3000万円控除があるから税金はかからないと聞きました」「買い替えるなら買換え特例のほうが得なのでは」── 都心のタワーマンションを売却しようとする方から、こうしたご質問をよくいただきます。
結論から申し上げます。自宅として住んでいたタワーマンションであれば、3,000万円特別控除は売却価格の大小にかかわらず使えます。一方、買換え特例には「売却価格1億円以下」という上限があり、億ションクラスの住戸ではそもそも選択肢に入らないことが少なくありません。また、都心の高級マンションでは値上がり益が3,000万円を超えることも多く、「控除があるから税金ゼロ」とはならないのが実情です。
本記事では、居住用財産の特例の適用要件を整理したうえで、想定されるケースで特例あり・なしの手取りの差を試算し、私たち鑑定士の視点から「取得費と時価」という二つの数字の重要性をお伝えします。特例の適用判定と申告は、必ず税理士にご確認ください。
マンション売却で使える居住用財産の特例は3つあります
3,000万円特別控除 ― 売却価格の上限はありません
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除(租税特別措置法第35条)は、自宅を売ったときの譲渡所得(売却益)から最高3,000万円を差し引ける制度です。所有期間の要件はなく、売却価格の上限もありません。1億円を超える億ションでも、自宅として住んでいた住戸であれば対象になります。
国税庁タックスアンサーNo.3302が示す主な要件は次のとおりです。
- 自分が住んでいる家屋か、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 売った年の前年・前々年にこの特例や、マイホームの譲渡損失についての損益通算・繰越控除の特例を受けていないこと
- 親子や夫婦など特別の関係がある人に売ったものでないこと
仮住まいや別荘、節税目的だけで入居した住戸は対象外です。
10年超所有の軽減税率 ― 3,000万円控除と併用できます
売った年の1月1日時点で家屋と敷地の所有期間がともに10年を超えていれば、軽減税率の特例(租税特別措置法第31条の3)が使えます。3,000万円控除後の課税長期譲渡所得のうち6,000万円以下の部分は、所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて14.21%となり、通常の長期譲渡所得の20.315%より約6ポイント下がります。6,000万円を超える部分は20.315%です。
買換え特例 ― 税金が「消える」のではなく「先送り」になります
特定の居住用財産の買換え特例(租税特別措置法第36条の2)は、自宅を売って新しい自宅を買った場合に、売却益への課税を将来に繰り延べる制度です。国税庁タックスアンサーNo.3355によれば、令和9年12月31日までの売却が対象で、主な要件は次のとおりです。
- 売った住宅の所有期間と居住期間がともに10年以上であること
- 売却代金が1億円以下であること
- 買い換える住宅の床面積が50平方メートル以上であること。中古の場合は取得日以前25年以内に建築されたものか、一定の耐震基準に適合するもの
- 売った年の前年から翌年までの間に買い換え、所定の期限までに住むこと
重要なのは、買換え特例は非課税ではなく課税の繰延べだという点です。新居の取得費は旧居の取得費を引き継ぐため、新居を将来売却するときに、先送りした売却益にまとめて課税されます。
3000万円控除と買換え特例、タワーマンションではどちらを選ぶか
「1億円の壁」で買換え特例が使えない住戸が多い
買換え特例の最大の制約は、売却代金1億円以下という上限です。都心のタワーマンション高層階や広めの住戸では、売却価格が1億円を超えることは珍しくありません。この場合、買換え特例は選択肢から外れ、3,000万円特別控除と軽減税率の組み合わせが基本になります。
なお、売った住宅と一体として住んでいた家屋や敷地を前後の年に分けて売った場合には、その代金を合計して1億円以下かどうかを判定する定めがあります。分割して上限を回避することはできないと考えてください。
2つの特例は併用できません
3,000万円特別控除と買換え特例は、どちらか一方しか選べません。国税庁タックスアンサーNo.3302・No.3355はいずれも、売った年・前年・前々年に他方の特例を受けていないことを要件としています。
どちらが有利かは、売却益の大きさで決まります。売却益が3,000万円前後以下であれば、3,000万円控除でほぼ税金がかからず、しかも課税関係がそこで完結します。一方、売却価格は1億円以下でありながら、昔に安く買ったため売却益が3,000万円を大きく超える、という住戸では買換え特例が候補になります。都心のタワーマンションでこの両方の条件を満たすケースは限られるでしょう。
住宅ローン控除との関係に注意してください
見落とされやすいのが、新居の住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)との関係です。国税庁タックスアンサーNo.1211-1によれば、新居に住み始めた年とその前2年・後3年の計6年間に、3,000万円特別控除や買換え特例などの居住用財産の特例を受けていると、住宅ローン控除は受けられません。
つまり「旧居の売却で特例を使うか、新居で住宅ローン控除を使うか」の選択になります。ただし住宅ローン控除には合計所得金額2,000万円以下という所得要件があります。高級マンションの所有者層ではこの要件を満たさない方も多く、その場合は迷わず売却側の特例を検討することになります。どちらが有利かは、借入額や所得の見込みを含めて税理士に試算を依頼してください。
想定されるケースで手取りを比べます
ケース1:売却価格1億4,000万円のタワーマンション
11年前に8,000万円(うち建物部分3,000万円)で購入し、ずっと自宅として住んできたタワーマンションを、1億4,000万円で売却する場面を想定します。売却価格が1億円を超えるため、買換え特例は使えません。
取得費は購入価額から建物の減価の額を差し引いて求めます。国税庁タックスアンサーNo.3261の方法(非業務用の鉄筋コンクリート造は、取得価額×0.9×償却率0.015×経過年数)で計算すると、減価の額は3,000万円×0.9×0.015×11年=445.5万円、取得費は約7,554万円です。譲渡費用は仲介手数料(1億4,000万円×3%+6万円、消費税込みで約469万円)と印紙税を合わせて約475万円とします。
売却益(譲渡所得)は、1億4,000万円-約7,554万円-約475万円=約5,971万円です。ローン残債の返済は考慮せず、税金だけを差し引いた手取りを比べると次のとおりです。
| 前提 | 課税譲渡所得 | 税額の目安 | 手取りの目安 |
|---|---|---|---|
| 特例なし(長期譲渡) | 約5,971万円 | 約1,213万円 | 約1億2,312万円 |
| 3,000万円控除のみ | 約2,971万円 | 約604万円 | 約1億2,921万円 |
| 3,000万円控除+軽減税率 | 約2,971万円 | 約422万円 | 約1億3,103万円 |
特例の有無で、手取りには約790万円の差が生じます。一方で、特例を最大限使っても約422万円の税負担は残ります。「3,000万円控除があるから税金はかからない」という理解は、高級マンションでは成り立たないことが分かります。
ケース2:売却価格9,800万円なら買換え特例も選べます
12年前に6,000万円(うち建物部分2,400万円)で購入した住戸を9,800万円で売却し、1億2,000万円の住戸に買い換える場面を想定します。取得費は約5,611万円、譲渡費用は約333万円、売却益は約3,856万円です。
| 選択 | 今回の税額の目安 | その後の扱い |
|---|---|---|
| 3,000万円控除+軽減税率 | 約122万円 | 課税関係はここで完結 |
| 買換え特例 | 0円 | 約3,856万円の売却益を新居に繰延べ |
| 特例なし | 約783万円 | ― |
買換え特例を選ぶと今回の税額はゼロになりますが、新居の取得費は実際の購入価格1億2,000万円ではなく約8,144万円として引き継がれます。新居を将来売るとき、繰り延べた約3,856万円の売却益にも課税されるということです。このケースでは、約122万円を払って課税関係を終わらせる3,000万円控除のほうが、多くの方にとって合理的な選択になるでしょう。
所有期間10年の境目で税額が変わります
ケース1で、所有期間が10年に届かず軽減税率が使えなかった場合、税額は約422万円から約604万円へ、約181万円増えます。所有期間は売った年の1月1日時点で判定するため、年をまたいで売却するだけで軽減税率の対象になる場合があります。売却時期の判断材料として、所有期間の起算日は購入時の契約書と登記で確認しておいてください。
手取りを左右する「取得費」と「時価」―鑑定士の視点
土地と建物の内訳で取得費が変わります
試算で見たとおり、取得費は建物部分の減価を差し引いて求めます。そのため、購入価格のうち建物部分がいくらかによって取得費が変わり、税額が変わります。タワーマンションは敷地に対して住戸数が多く、1戸あたりの土地持分が小さいため、購入価格に占める建物の割合が高くなりやすい類型です。
売買契約書に土地と建物の内訳が書かれていない場合は、消費税額から建物価格を逆算する方法や、国税庁の「建物の標準的な建築価額表」を使う方法などがあります。不動産鑑定評価基準でも、複合不動産の価格を土地と建物に配分する考え方が示されていますが、税務上どの方法を採るかは税理士とご相談ください。購入時の契約書を紛失していると売却価格の5%を取得費とみなす概算取得費によることになり、ケース1では取得費が約7,554万円から700万円に下がってしまいます。契約書は必ず探しておいてください。
売却価格は税額と手取りの出発点です
特例の選択以前に、手取りを最も大きく動かすのは売却価格そのものです。売出価格を相場より低く設定すれば、特例で数百万円を節税しても、それ以上の手取りを失いかねません。億ションの売却価格の考え方は「億ションの売却、適正価格はどう見極める? ― 売出価格を誤るコストと鑑定評価の活用」で整理しています。
また、ケース2のように売却価格が1億円前後の住戸では、1億円を超えるか否かで買換え特例の適否が分かれます。ただし、特例を使うために相場より低い価格で売ることは本末転倒です。とくに親族など特別の関係がある人への売却はそもそも特例の対象外であり、時価より著しく低い価格で売れば別の課税問題も生じ得ます。こうした場面こそ、客観的な時価を把握しておく意味があります。
時価を確認する手段の使い分け
売却前に、不動産会社の査定額が妥当かを第三者の目で確かめたい場合は、査定書のセカンドオピニオン(5万円〜・税別)が使えます。金額の目安を知るための価格等調査報告書(不動産鑑定評価基準に則らない、目的・範囲を限定した価格調査)は15万円〜、親族間売買や法人との取引など時価の根拠を書面で残す必要がある場合は、マンション1室の鑑定評価書が40万円〜(いずれも税別)です。詳しくは料金のご案内をご覧ください。なお、離婚に伴う財産分与で自宅を渡す場合の課税は「財産分与でマンションを渡した側に税金がかかる?― 譲渡所得課税を時価から逆算する」で解説しています。
まとめ
自宅として住んできたタワーマンションなら3,000万円特別控除は使えますが、高級マンションでは控除しきれない売却益が残ることを前提に、特例の選択と売却価格を考える必要があります。要点を振り返ります。
- 3,000万円特別控除(租税特別措置法第35条)は売却価格の上限がなく、億ションでも自宅なら対象になる
- 10年超所有なら軽減税率(同第31条の3)を併用でき、6,000万円以下の部分は14.21%に下がる
- 買換え特例(同第36条の2)は売却代金1億円以下が要件で、税金は非課税ではなく繰延べになる
- 3,000万円控除と買換え特例は併用できず、新居の住宅ローン控除とも原則として両立しない
- 想定ケースでは特例の有無で手取りに約790万円の差が出たが、特例を使っても約422万円の税負担が残った
- 取得費(土地・建物の内訳と契約書の有無)と売却価格(時価)が、手取りを左右する二つの数字になる
都心のタワーマンション・高級マンションの売却や住み替えを検討している所有者の方、そうした顧客の譲渡所得の試算を担う税理士の先生は、特例の選択に入る前に、まず売却価格の水準と取得費の根拠を確認することから始めてください。
都心の高級マンション・タワーマンションの売却価格の妥当性をご確認されたい方は、初回無料相談をご利用ください。査定額の検証から鑑定評価書まで、目的に合った方法を概算費用とあわせてご案内します。特例の適用判定・税額計算・申告は税理士にご確認ください。当事務所は評価の側面から連携いたします。
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
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