離婚・財産分与

財産分与でマンションを渡した側に税金がかかる?― 譲渡所得課税を時価から逆算する

財産分与でマンションを渡した側には、現金を受け取っていなくても譲渡所得税が生じ得ます。課税の基礎は分与時の時価。3,000万円特別控除が使える条件、もらう側の不動産取得税・登録免許税との違いを、時価1億2,000万円の想定ケースで整理します。

著者:吉田 健人·読了 約17
財産分与でマンションを渡した側に税金がかかる?― 譲渡所得課税を時価から逆算する

「マンションは妻に渡して、私は出ていくだけです。お金は一切もらいません。だから税金の話はないですよね」── 離婚協議中の方から、こうしたお話をうかがうことがあります。

しかし、その理解は逆です。財産分与で不動産を渡した側には、譲渡所得税が課される可能性があります。しかも課税の基礎になるのは、渡した住戸の「分与時の時価」です。都心の高級マンション・タワーマンションのように時価が大きく値上がりしている物件では、現金を1円も受け取っていないのに1,000万円を超える納税義務が生じることもあります。分与の翌年の確定申告で初めて気づき、納税資金が手元にない、という事態は実際に起こり得ます。

本記事では、渡す側にかかる譲渡所得税と、もらう側にかかる不動産取得税・登録免許税を対比し、なぜ時価の把握が課税リスク見積りの出発点になるのかを、私たち鑑定士の立場から整理します。個別の税額計算と申告については必ず税理士にご確認ください。

財産分与で不動産を渡すと、渡した側に譲渡所得課税が生じます

「分与義務の消滅」が対価とみなされます

財産分与は、婚姻中に夫婦が築いた財産を離婚時に清算する制度です。渡す側は代金を受け取りません。それなのになぜ譲渡所得課税が生じるのか、直感に反すると感じられるのは当然です。

根拠は、最高裁判所昭和50年5月27日判決にあります。同判決は、財産分与として不動産を渡すことにより分与義務が消滅するという経済的利益を得ている以上、譲渡所得の課税対象となる資産の譲渡にあたる、という考え方を示しました。現金の受領ではなく、義務からの解放が対価と評価されるということです。

収入金額は「分与時の時価」です

国税庁タックスアンサーNo.3114「離婚して土地建物などを渡したとき」は、この扱いを明確にしています。同ページは、財産分与として土地建物などを渡した場合、分与した時の土地や建物などの時価が譲渡所得の収入金額となる、と説明しています。

つまり課税の起点は、購入価格でも固定資産税評価額でも、離婚協議書に書いた金額でもありません。分与した時点の時価です。ここを取り違えたまま協議を進めると、税額の見積りが根本から狂います。

もらう側の取得費・取得時期もこの時価で決まります

同じタックスアンサーは、分与を受けた側について、分与を受けた日にその時の時価で土地や建物を取得したことになる、としています。将来その住戸を売却するときの取得費は購入当時の価格ではなく分与時の時価であり、取得時期も分与の日にリセットされるため、長期譲渡・短期譲渡の判定も分与日を起点に行います。分与時の時価は、渡す側の今年の税額と、もらう側の将来の税額の両方を規定する数字なのです。

渡す側の税額はこう計算します

計算式と税率

譲渡所得は、収入金額(分与時の時価)から取得費と譲渡費用を差し引いて求めます。取得費は購入価額から建物部分の減価の額を控除した金額で、国税庁タックスアンサーNo.3261によれば、非業務用の鉄筋コンクリート造建物の減価の額は取得価額×0.9×償却率0.015×経過年数で計算します。

税率は所有期間で変わります。譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得となり、所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%の合計20.315%。5年以下の短期譲渡所得では合計39.63%と、税負担が倍近くになります。

想定されるケース:時価1億2,000万円のタワーマンションを分与する

都心のタワーマンションを10年前に8,000万円(うち建物部分3,000万円)で購入し、現在の時価が1億2,000万円になっている住戸を、夫の単独名義から妻へ分与する場面を想定します。

建物の減価の額は3,000万円×0.9×0.015×10年=405万円ですから、取得費は5,000万円+(3,000万円-405万円)=7,595万円です。収入金額1億2,000万円から取得費を引くと、譲渡所得は4,405万円となります。

この譲渡所得に対する税額は、移転のタイミングと資料の有無によって、次のように大きく変わります。

前提課税譲渡所得税額の目安
離婚成立前に移転(特例なし)4,405万円約894万円
離婚成立後に移転(特例適用)1,405万円約199万円
離婚後・取得費の資料なし8,400万円約1,340万円

同じ住戸、同じ時価でありながら、税額は約199万円から約1,340万円まで開きます。差を生んでいるのは、次章で述べる特例の適用可否と、購入時の契約書が残っているかどうかです。

取得費の資料がないと税額は跳ね上がります

購入時の売買契約書を紛失している場合、収入金額の5%を取得費とみなす概算取得費によることになります。上の例では取得費が7,595万円から600万円へ激減し、譲渡所得は1億1,400万円に膨らみます。協議に入る前に、売買契約書・仲介手数料の領収書・登記費用の明細を探してください。土地と建物の内訳が契約書にない場合の扱いを含め、取得費の確定は税理士にご相談いただく領域です。

3,000万円特別控除は「離婚後」でなければ使えません

配偶者は「特別の関係がある人」に当たります

居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除(租税特別措置法第35条)は、マイホームの譲渡益から最高3,000万円を控除できる制度です。ただし国税庁タックスアンサーNo.3302は、売手と買手が親子や夫婦など特別の関係にある場合には適用されないとしています。

離婚が成立する前に所有権を移転すれば、相手はまだ配偶者です。この特例も、次に述べる軽減税率の特例も使えません。反対に、離婚成立後に財産分与として移転すれば、相手は配偶者ではなくなっているため、他の要件を満たす限り適用の余地が生まれます。登記のタイミングという手続上の一点が、先ほどの表で約894万円と約199万円を分けています。

ただし、すでに別居して住まなくなっている場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡することが要件です。また、生計を一にする親族や譲渡後にその家屋で同居する親族も適用除外とされます。適用の可否は必ず税理士にご確認ください。

10年超所有の軽減税率との併用

譲渡した年の1月1日時点で家屋・敷地の所有期間がともに10年を超えていれば、軽減税率の特例(租税特別措置法第31条の3)を3,000万円特別控除と併せて使えます。課税長期譲渡所得のうち6,000万円以下の部分は所得税10%・復興特別所得税を含めて10.21%と住民税4%、合計14.21%です。6,000万円を超える部分は通常どおり20.315%となります。

先ほどの想定ケースで離婚後に移転した場合、譲渡所得4,405万円から3,000万円を控除した1,405万円に14.21%を乗じて、税額は約199万円と試算されます。この特例も配偶者への譲渡は対象外です。

高級マンションでは控除しきれないことが前提です

注意していただきたいのは、3,000万円特別控除があれば税金はかからない、という単純な話ではないことです。都心の高級マンションでは値上がり益が3,000万円を超えることは珍しくありません。控除は譲渡益を圧縮する道具であって、ゼロにする道具ではない。そして残る税額の大きさを決めるのは収入金額、すなわち時価です。時価の把握を後回しにしたまま「特例があるから大丈夫」と考えるのは、順序が逆です。

もらう側にかかる税金 ― 贈与税・不動産取得税・登録免許税

贈与税は原則としてかかりません

国税庁タックスアンサーNo.4414「離婚して財産をもらったとき」は、離婚により相手方から財産をもらった場合、通常は贈与税がかからないとしています。財産分与請求権に基づく給付であって、贈与ではないと考えられるためです。

ただし例外が2つ示されています。分与された財産の額が、婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮してもなお過当であると認められる場合、その過当な部分に贈与税がかかります。また、贈与税や相続税を免れる目的で行われた離婚と認められる場合は、もらった財産のすべてが課税対象です。過当かどうかは分与された不動産の時価を基礎に判断されますから、もらう側にとっても時価は無関係な数字ではありません。

不動産取得税は分与の性質で結論が変わります

もらう側の税金として見落とされやすいのが不動産取得税です。結論は、その財産分与がどの性質のものかによって分かれます。

実質的に夫婦の共有財産を清算するものと認められる清算的財産分与であれば、新たな取得には当たらないとして課税されない取り扱いです。一方、慰謝料的財産分与や扶養的財産分与として不動産を受け取る場合は、実質的な所有権の移転があったとして課税対象となります。

税率は、令和9年3月31日までに取得する土地および住宅について3%(住宅以外の家屋は4%)で、宅地および宅地評価された土地には同じ期限まで課税標準を価格の2分の1とする特例があります。中古住宅の築年月に応じた控除もありますので、実際の税額は都道府県税事務所にご確認ください。

分かれ目が分与の性質にある以上、離婚協議書や公正証書に、どの部分が清算でどの部分が慰謝料なのかを書き分けておくことが実務上重要です。文言の設計は弁護士にご相談ください。

登録免許税は必ずかかります

所有権移転登記の登録免許税は、財産分与の性質にかかわらず発生します。税率は登録免許税法別表第一により、相続以外の原因による移転として不動産の価額の1,000分の20、すなわち2%。課税標準となる不動産の価額は、原則として固定資産課税台帳に登録された価格です。

ここで一点、高級マンション特有の注意があります。登録免許税や不動産取得税の基礎になるのは固定資産税評価額であり、時価ではありません。タワーマンションの高層階のように時価と評価額の乖離が大きい住戸では、これらの税額は時価に比例しては増えません。譲渡所得税は時価、流通課税は評価額と、基礎となる数字が異なることを押さえてください。

税目負担する側課税標準
譲渡所得税・住民税渡す側分与時の時価
贈与税もらう側(原則不課税)過当な部分の時価
不動産取得税もらう側(清算的分与は非課税)固定資産税評価額
登録免許税もらう側(合意による)固定資産税評価額

時価の把握が、課税リスク見積りの出発点です

査定額では課税リスクを測れません

ここまで見てきたとおり、渡す側の税額も、もらう側の将来の取得費も、贈与税の過当性判断も、すべて分与時の時価を起点にしています。

ところが実務では、不動産会社の査定書だけで協議を進めてしまう例が少なくありません。査定額は宅地建物取引業法第34条の2第2項に基づき媒介契約に際して述べられる価額の意見であり、不動産鑑定評価基準に従う義務はなく、複数社で数千万円の幅が出ることもあります。査定額の幅がそのまま譲渡所得の幅になり、税額の幅になります。夫婦それぞれの査定額が食い違う構造は「離婚時の家の査定はどっちがやる?― 夫婦の査定額が食い違う本当の理由」で整理しています。

なお、税額を小さく見せたいがために協議書に低い金額を記載することに実益はありません。断言しますが、当事者間で低い金額に合意しても、それによって譲渡所得の収入金額が下がるわけではないからです。

渡すか、代償金で清算するかの比較にも時価が要ります

税負担の全体像が見えると、分与の方法そのものを見直す選択肢も生まれます。住戸を現物で渡すのではなく、元の名義人がそのまま住戸を保有し、他方に代償金を支払う方法です。譲渡自体が生じないため、譲渡所得課税の問題は先送りになります。どちらが有利かは時価・ローン残債・資金力・居住継続の希望によって変わりますが、いずれを検討するにも共通の前提として時価が必要です。分与の基準となる時点の考え方は「財産分与の不動産評価は別居時?裁判時?― 基準時で変わる分与額」をご覧ください。

価格等調査報告書と鑑定評価書の使い分け

協議の初期段階で税負担の概算を把握したい段階であれば、価格等調査報告書(不動産鑑定評価基準に則らない範囲で価格の調査結果を報告する書面)で足りることが多くあります。一方、調停・訴訟の資料として提出する場合や、税務上の説明資料として残す必要がある場合は、鑑定評価書が適切です。高級マンションの評価で押さえるべき論点は「離婚における高級マンション財産分与 ― 鑑定評価の使い方」にまとめています。

まとめ

財産分与で不動産を渡す側は、現金を受け取らないにもかかわらず納税義務を負い得ます。そしてその税額を決めているのは、分与時の時価という一つの数字です。要点を振り返ります。

  • 最高裁昭和50年5月27日判決の考え方により、財産分与による不動産の移転は譲渡所得の課税対象となる。収入金額は分与時の時価(国税庁タックスアンサーNo.3114)
  • もらう側の取得費と取得時期も分与時の時価・分与の日で決まるため、時価は将来の税額も規定する
  • 3,000万円特別控除(租税特別措置法第35条)と10年超の軽減税率(同第31条の3)は配偶者への譲渡では使えず、離婚成立後に移転するかどうかで税額が大きく変わり得る
  • 想定したケースでは、同じ時価1億2,000万円の住戸で税額の目安が約199万円から約1,340万円まで開いた。分岐点は移転のタイミングと取得費資料の有無
  • もらう側の不動産取得税は、清算的財産分与なら非課税、慰謝料的・扶養的財産分与なら課税。協議書の書き分けが結論を左右する
  • 譲渡所得税の基礎は時価、不動産取得税・登録免許税の基礎は固定資産税評価額と、拠って立つ数字が異なる

離婚協議中に都心のマンションをどう分けるか決めかねているご本人様、依頼者の課税リスクまで見据えて条件を組み立てたい弁護士の先生は、まず購入時の契約書と客観的な時価の水準を確認することから始めてください。この2つが分かれば、税額の概算は見えてきます。

都心の高級マンション・タワーマンションの評価をご検討の方は、初回無料相談をご利用ください。ご事情をうかがったうえで、価格等調査報告書と鑑定評価書のどちらが適しているかを概算費用とあわせてご案内します。具体的な税額計算・申告は税理士に、分与条件の法的な組み立ては弁護士にご確認ください。当事務所は評価の側面から連携いたします。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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