離婚・財産分与

別居後の値上がり分も財産分与の対象? ― 評価時点とローン残高で変わる分与額

別居後に値上がりしたマンションは財産分与でどう扱われるのか。評価は分与時の時価によるのが一般的な理由と、値上がり・値下がりの両ケース、ローン残高の時点で代償金が数百万〜2,000万円変わる試算を不動産鑑定士が解説します。

著者:吉田 健人·読了 約11分
別居後の値上がり分も財産分与の対象? ― 評価時点とローン残高で変わる分与額

「別居してから2年、調停が長引くうちにマンションの相場が大きく上がった。別居後の値上がり分まで財産分与で相手に渡さなければならないのか」――別居期間が長くなった当事者様から、よくいただくご相談です。都心の高級マンションやタワーマンションでは、数年で数千万円単位の値動きが起きることも珍しくありません。

結論から申し上げます。別居後の値上がり分も、財産分与の計算に反映されるのが一般的な扱いです。分与の対象となる財産は別居時を基準に確定しますが、その財産をいくらと評価するかは、分与時(調停・裁判の時点)に近い時価によるとされることが多いためです。値上がりも値下がりも、原則として夫婦双方が分け合うことになります。ただし、住宅ローンの残高をいつの時点で差し引くか、別居後に一方が負担した返済や改修をどう考えるかによって、分与額は数百万円単位で変わります。

本記事では、別居後に価格が動いたマンションの財産分与について、値上がり・値下がりの両ケースを試算で対比し、ローン残債の減少との組合せで分与額がどう変わるかを、私たち鑑定士の視点で整理します。法的な結論は事案ごとに異なりますので、個別の判断は弁護士にご確認ください。

別居後の値上がりは財産分与でどう扱われるか

「範囲は別居時、評価は現在」という整理

財産分与(婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を離婚時に清算する制度。民法第768条)では、どの財産が対象になるかを、夫婦の経済的な協力関係が終わった別居時を基準に確定する扱いが一般的です。一方で、対象財産の評価額は、現実に分与が行われる時点に近い時価によるとされることが多くあります。

つまり、別居時に夫婦の共有財産だったマンションは、その後に値上がりしても値下がりしても、分与時の時価で評価されるのが原則的な考え方です。基準時そのものの考え方は、財産分与の不動産評価は別居時?裁判時?で詳しく解説しています。

値上がり分は「誰のもの」なのか

「自分が住み続けて管理してきたのだから、値上がり分は自分のものだ」と考える方もいらっしゃいます。しかし、相場全体の上昇による値上がりは、どちらか一方の努力で生じたものではありません。マンションが夫婦の共有財産である以上、市場の変動による価値の増減も、夫婦双方に帰属すると考えるのが自然です。

国土交通省「不動産価格指数」の区分所有マンションの指数は、2013年以降おおむね上昇を続けてきました。別居期間が長い事案ほど、この市場の上昇が分与額に反映されやすくなります。

一方の行為による価値の増加は別に考える余地がある

これに対して、別居後に一方が自己資金で大規模な改修を行い、その結果として価値が上がった場合は、相場上昇とは性質が異なります。その費用を負担した側の寄与として考慮する余地があり得ます。値上がりの原因が「市場」なのか「一方の行為」なのかを分けて考えることが、議論を整理する第一歩です。

別居後に値下がりした場合も同じ考え方

値下がりのリスクも双方が負う

評価を分与時の時価で行う以上、別居後に値下がりした場合は、その損失も双方で分け合うことになります。上昇局面では「別居時の価格で計算したい」と主張していた側が、下落局面では「現在の価格で」と主張を変えることもあります。立場によって望ましい時点が入れ替わるのが、この論点の難しさです。

当事者の利害は時点の選び方で逆転する

局面マンションを取得する側代償金を受け取る側
別居後に値上がり別居時の評価を望む現在の評価を望む
別居後に値下がり現在の評価を望む別居時の評価を望む

代償金(マンションを取得する側が、相手方に支払う清算金)の額は、評価額の差の2分の1ずつ動きます。評価時点をめぐる主張は、そのまま金額の主張でもあるのです。

住宅ローン残高の時点で分与額はさらに変わる

ローン残高は別居時で差し引く扱いが見られる

住宅ローンの残るマンションでは、時価からローン残高を差し引いた純資産額が分与の対象になります。ここで問題になるのが、ローン残高をいつの時点で差し引くかです。別居後に一方が自分の収入から返済を続けた場合、その返済による元本の減少は、夫婦の協力によるものとは言いにくい面があります。そのため、時価は現在で評価しつつ、ローン残高は別居時の金額で差し引くという扱いが見られます。

別居後の返済が分与額に与える影響

ローン残高を現在の金額で差し引くと、別居後に一方が返済した元本のうち半分が、相手方の取り分に上乗せされる計算になります。返済を続けてきた側から見れば、自分の返済が相手に流れる形です。一方で、返済を続けた側は別居後もその住戸に住み続け、居住の利益を得ていたという事情が考慮されることもあります。どちらの扱いが妥当かは、婚姻費用の取り決めや居住の実態を含めた事案ごとの判断となり、弁護士にご確認いただく領域です。オーバーローン(ローン残高が時価を上回る状態)の場合の考え方は、オーバーローンのマンションは財産分与できない?で整理しています。

想定ケースで試算する:評価時点とローン残高の組合せ

前提条件

夫名義の都心タワーマンションを、夫婦の共有財産として想定します。別居時の時価は1億6,000万円、ローン残高は8,000万円でした。別居後の2年間、夫が単独で返済を続け、現在のローン残高は7,400万円です。夫がマンションを取得して住み続け、妻に代償金を支払うものとし、分与割合は2分の1とします。

現在の時価は、相場が上昇した場合を2億円、下落した場合を1億4,000万円の2通りで考えます。

分与額(妻が受け取る代償金)の比較

計算の組合せ値上がり(現在2億円)値下がり(現在1.4億円)
A 時価・ローンとも別居時4,000万円4,000万円
B 時価は現在・ローンは別居時6,000万円3,000万円
C 時価・ローンとも現在6,300万円3,300万円

計算式は、(時価-ローン残高)÷2 です。たとえばBの値上がりケースは、(2億円-8,000万円)÷2=6,000万円となります。

試算から読み取れること

値上がりケースでは、評価時点の違い(AとB)だけで代償金が2,000万円変わります。さらにローン残高の時点の違い(BとC)で300万円変わり、これは夫が別居後に返済した元本600万円の半分にあたります。値下がりケースでは、AとBの関係が逆転し、評価時点を別居時に置くほうが妻に有利になります。

断言します。高級マンションの財産分与では、「時価をいくらと見るか」と同じくらい、「どの時点の時価とローン残高を組み合わせるか」が結論を左右します。

鑑定士の視点:別居時と現在の2時点を評価する

過去時点の価格は「遡及評価」で求められる

別居時の価格を今から求めるには、遡及評価(価格時点を過去の一時点に設定して行う鑑定評価)を用います。不動産鑑定評価基準(国土交通省が定める鑑定評価の統一ルール)は、価格時点(価格判定の基準日)を過去に設定することを認めており、当時の取引事例や市場の資料に基づいて評価を行います。

値上がり分を「相場要因」と「個別要因」に分ける

鑑定評価では、取引事例比較法(類似の成約事例と比べて価格を求める手法)で事例の取引時点と価格時点のずれを補正する際、時点修正(事例の取引時点から価格時点までの価格水準の変動を反映する補正。不動産鑑定評価基準 総論第7章)を行います。この考え方を応用すると、別居時から現在までの値上がりのうち、市場全体の上昇による部分と、別居後の改修など住戸固有の変化による部分を分けて示すことができます。前述の「値上がりの原因が市場か一方の行為か」という論点に、数字で答える材料になります。

2時点の評価で協議の土台をそろえる

別居時と現在の2時点の評価額がそろえば、評価時点の選択でどれだけ金額が変わるのかが明確になります。差が小さければ時点の争いに時間をかける必要はなくなり、差が大きければ、その差をどう調整するかという実質的な協議に進めます。相手方の査定に反論する場面については、離婚で相手の査定に反論するには?もご覧ください。

費用の目安は、マンション1室の鑑定評価書が40万円〜、別居時と現在の2時点で評価する場合は+10万円〜です(いずれも税別)。調停・訴訟など争訟案件は、価格等調査30万円・鑑定評価書60万円(税別)を起点にお見積りします。詳しくは料金のご案内をご覧ください。

まとめ

別居後に値上がりしたマンションも、財産分与では分与時に近い時価で評価されるのが一般的で、値上がり分・値下がり分は原則として夫婦双方に帰属します。

要点を振り返ります。

  • 分与の対象は別居時で確定し、評価は分与時に近い時価による扱いが一般的
  • 相場上昇による値上がりは双方に帰属し、一方の改修などによる増加は別に考える余地がある
  • 値下がりした場合も同じ考え方で、当事者の有利・不利は局面によって逆転する
  • ローン残高を別居時と現在のどちらで差し引くかで、別居後の返済分の帰属が変わる
  • 想定ケースでは、評価時点で2,000万円、ローン残高の時点で300万円、代償金が変わる
  • 別居時と現在の2時点の鑑定評価で、相場要因と個別要因を分けて示せる

別居期間が長期化し、マンションの価格が別居時から大きく動いている当事者様、そうした事案を担当される弁護士の先生は、評価時点ごとの金額を把握したうえで協議に臨むことをお勧めします。

都心の高級マンション・タワーマンションの別居時点と現在時点の評価をご検討の方は、初回無料相談をご利用ください。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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