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賃貸等不動産の時価開示、社宅は対象になるのか ― 注記で迷う線引きを鑑定士が整理

役員社宅や保有レジデンスは賃貸等不動産の時価開示の対象になるのか。企業会計基準第20号は定義を保有目的で、範囲を形式で切り分けます。社宅・連結会社間の賃貸・用途未定の住戸をどう線引きするか、注記に載せる時価をどう求めるかを不動産鑑定士が整理します。

著者:吉田 健人·読了 約15
賃貸等不動産の時価開示、社宅は対象になるのか ― 注記で迷う線引きを鑑定士が整理

決算期が近づくと、経理・財務のご担当者から「この物件は賃貸等不動産の注記に載せるべきでしょうか」というご相談をいただきます。都心のタワーマンションを役員社宅として保有している、かつて社宅だった住戸が今は空いている、賃貸中の住戸と自社使用の住戸が混在している。どれも、企業会計基準第20号「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」の条文を読むだけでは答えが一つに決まりません。

厄介なのは、この基準が「保有目的」と「形式」という二つの物差しを同時に使っている点です。定義(第4項(2))は目的で切り、範囲(第5項)は形式で切る。その二つが噛み合わない典型が、まさに社宅なのです。

本記事では、都心の高級マンション・タワーマンションを保有する法人を念頭に、どの物件が注記の対象になるのか、対象になったとき時価をどう求めるのかを、私たち鑑定士が依頼を受けたときに整理する順序でご説明します。なお、会計処理・開示の最終的な当否は監査法人・公認会計士に、税務上の取扱いは税理士にご確認ください。

定義は「目的」で切り、範囲は「形式」で切る

賃貸等不動産の定義

会計基準第4項(2)は、賃貸等不動産を「棚卸資産に分類されている不動産以外のものであって、賃貸収益又はキャピタル・ゲインの獲得を目的として保有されている不動産」と定義し、続けて「物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に使用されている場合は賃貸等不動産には含まれない」と述べています。

自社使用が外れる理由は結論の背景第20項にあります。自社使用の不動産は市場の平均的な期待を超える成果を生み出すことを期待して使われている。だからその企業にとっての価値は市場の平均で決まる時価とは違う、という論理です。

範囲は3つの類型

一方、第5項は範囲を次の3つで示します。貸借対照表において投資不動産として区分されている不動産、将来の使用が見込まれていない遊休不動産、そして「上記以外で賃貸されている不動産」です。

3つめに注目してください。ここには「賃貸収益の獲得を目的として」という限定がありません。結論の背景第28項は、利用者に対する付随的なサービスの重要性で線を引くのは実務上容易ではないとして、形式的な区分を重視したと明言しています。つまり保有目的がどうであれ、賃貸されていれば原則として対象になる建て付けなのです。

開発中・空室・一部賃貸

第6項は、賃貸等不動産として使う予定で開発中・再開発中の不動産も、賃貸目的で保有しているが一時的に借手がいない不動産も、賃貸等不動産として扱うと定めます。空室期間中だから外れる、という理屈は通りません。また第7項は、自社使用部分と賃貸部分で構成される不動産について賃貸部分は含めるとしたうえで、賃貸部分の割合が低いと考えられる場合は含めないことができるとしています。ただし割合の数値基準は示されていません。

社宅は賃貸等不動産に含まれるのか

形式だけを見れば「賃貸されている不動産」

役員や従業員から社宅使用料を徴収して住戸を貸与している場合、形式的には「賃貸されている不動産」(第5項(3))に当てはまります。相手は連結の枠外にいる個人ですから、賃貸という事実は連結財務諸表上も消えません。第28項が形式重視を打ち出している以上、対象に含めるのが条文の素直な読み方だと考えられます。

「経営管理に使用されている」との整理もあり得る

もっとも、社宅は福利厚生制度の一部であり、賃貸収益やキャピタル・ゲインの獲得を目的に保有しているわけではありません。使用料も近傍同種の賃料水準ではなく、社内規程で低廉に定められているのが通例です。この実態を重く見て、第4項(2)の「経営管理に使用されている」不動産として対象外に整理する考え方も実務では見られます。

無償貸与であれば、この整理はさらに取りやすくなります。そもそも「賃貸されている」と言えるのかという議論になるからです。

グループ会社に貸している場合は結論が変わる

適用指針第3項は、賃貸等不動産に該当するかの判断を連結の観点から行うと定めています。連結会社間で賃貸されている不動産は、連結貸借対照表上は賃貸等不動産に該当しません。親会社が保有する住戸を連結子会社に貸し、子会社がそれを社宅や事務所として使っているなら、連結の目で見れば自社使用です。

これに対し貸与先が非連結子会社や持分法適用関連会社なら、連結の外にいるため該当します。親会社から借りた住戸を連結子会社がさらに外部へ賃貸していれば、これも該当します。「誰に貸しているか」ではなく「連結の外に貸しているか」で見る。取り違えやすい論点です。

想定されるケース ― 都心に4戸を保有する法人

都心の高級マンション4戸を保有する法人を想定し、区分を並べてみます。金額は説明のための仮置きです。

住戸の使い方注記対象の考え方期末時価
役員社宅として有償貸与形式重視なら対象、経営管理と整理すれば対象外2億2,000万円
連結子会社の社宅として貸与連結の観点では自社使用のため対象外1億8,000万円
第三者へ賃貸(期末時点で空室)賃貸目的の保有として対象1億5,000万円
元社宅を用途未定のまま保有将来の使用見込みの有無で判断1億2,000万円

見ていただきたいのは金額ではなく、同じ「マンション1住戸」でも4通りの結論があり得るという構造です。区分は、使用料の有無・貸与先の連結上の位置づけ・将来の使用見込みという3つの情報を物件ごとに集めるところから始まります。

用途が決まっていない住戸は「将来の使用見込み」で判断する

第5項(2)の遊休不動産は、「将来の使用が見込まれていない」ものだけが対象です。結論の背景第23項は、企業が将来の使用を見込んでいる遊休不動産は、その見込みに沿って賃貸等不動産にあたるかを判断するとしたうえで、遊休状態になってから間もない場合で、将来の使用の見込みを定めるために必要と考えられる期間にあるときは、これまでの使用状況等に照らして判断することが適当だとしています。

役員の退任に伴って社宅が空いた直後の決算であれば、直前まで社宅だった事実を踏まえて判断する、ということです。ただし判断を先送りしたまま数年が過ぎれば、「将来の使用が見込まれていない」と評価せざるを得ない局面に近づきます。方針を決めること自体が、開示の論点でもあるのです。

注記に載せる時価をどう求めるか

原則は不動産鑑定評価基準による方法

注記事項は第8項に4つ挙げられています。賃貸等不動産の概要、貸借対照表計上額および期中の主な変動、当期末における時価およびその算定方法、そして賃貸等不動産に関する損益です。賃貸等不動産の総額に重要性が乏しい場合は省略できます。

このうち時価について、適用指針第11項は、合理的に算定された価額は「不動産鑑定評価基準」(国土交通省)による方法または類似の方法に基づいて算定すると定めています。契約で一定の売却予定価額が取り決められている場合は、その価額を用います。

原則的時価算定とみなし時価算定

国土交通省が平成21年12月24日に公表した「財務諸表のための価格調査の実施に関する基本的考え方」は、財務諸表目的の価格調査を二つに分けました。不動産鑑定評価基準にのっとった鑑定評価である「原則的時価算定」と、鑑定評価の手法を選択的に適用し、または一定の評価額等に基づいて価格を求める「みなし時価算定」です。

賃貸等不動産の時価注記では原則的時価算定が求められ、重要性が乏しい場合にみなし時価算定が容認される、という整理です。私たちが依頼をお受けする際も、まずどちらの調査なのかを確認します。成果物の様式も報酬も、ここで変わるからです。

期末日と評価の基準日がずれる問題

実務でいちばん相談が多いのが、決算日を価格時点とする鑑定評価が決算作業に間に合わない、という悩みです。適用指針第12項は、取得時または直近の原則的な時価算定を行った時から、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に重要な変動が生じていない場合には、その評価額や指標を用いて調整した金額を当期末の時価とみなせるとしています。変動が軽微であれば、直近の価額をそのまま用いることもできます。

つまり毎期フルの鑑定評価を取り直す必要はありません。数期に一度、原則的時価算定で基礎を固め、中間年度は指標で調整する。この設計にすれば、決算スケジュールにも予算にも無理が出ません。

重要性が乏しい場合と、時価の把握が極めて困難な場合

適用指針第13項は、開示対象のうち重要性が乏しいものについて、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に基づく価額等を時価とみなすことができるとしています。時価を把握することが極めて困難な場合は、時価を注記せず、その事由・概要・貸借対照表計上額を他と区別して記載します(適用指針第14項)。

なお総額の重要性は、適用指針第8項により、貸借対照表日における時価を基礎とした金額と、時価を基礎とした総資産の金額との比較で判断します。簿価どうしの比較ではありません。

監査対応と、これからの改正

監査人と先に合わせておく3点

決算直前に論点が噴き出さないよう、次の3点を事前に揃えることをお勧めしています。第一に、物件ごとの区分(対象・対象外)とその根拠。第二に、どの物件を原則的時価算定とし、どの物件をみなし時価算定とするかの設計。第三に、価格時点と成果物の様式です。

区分の考え方が固まっていれば、鑑定評価の依頼範囲もおのずと決まります。逆にここが曖昧なまま全戸の鑑定評価を発注すると、不要な費用が生じます。減損会計の場面は法人保有レジデンスの減損テスト、社宅の賃料設定は役員社宅の適正賃料はいくら?で整理しています。

2024年改正で使用権資産が入った

2024年9月13日に最終改正された会計基準第20号は、第4項(2)の定義を改め、賃貸等不動産を「所有者又は使用権資産の形でリースの借手が保有する不動産」としました。借りている不動産を転貸している場合、借手側の使用権資産も賃貸等不動産になります。

ただし注記は同じではありません。改正後の第8項は、借手が使用権資産の形で保有する賃貸等不動産について、概要・計上額および期中の主な変動・損益の3つを注記し、計上額は所有分と区別するとしています。時価の注記は求められていません。適用時期は企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」と同じく、2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から(2025年4月1日以後開始する事業年度からの早期適用が可能)です。

会社法の計算書類でも注記が要る

開示は有価証券報告書だけの話ではありません。会社計算規則第110条第1項は、計算書類において賃貸等不動産の状況に関する事項と時価に関する事項の注記を求めています。連結注記表を作成している会社は個別注記表での記載を要せず(同条第2項)、会計監査人設置会社以外の株式会社(公開会社を除く)では注記自体が不要です。自社に注記義務があるかは、まずこの条文でご確認ください。

まとめ

賃貸等不動産の時価開示は、定義を目的で切り、範囲を形式で切るという二層構造になっています。社宅がどちらに落ちるかは条文からは一義に決まらず、使用料の有無と貸与先の連結上の位置づけ、そして自社の整理をどう文書化するかで決まります。

要点を振り返ります。

  • 定義は保有目的で切られ自社使用は除かれる一方(会計基準第4項(2)、第20項)、範囲は形式重視で、賃貸されていれば原則として対象になる(第5項(3)、第28項)
  • 有償の社宅は形式的には対象に該当し得る一方、福利厚生としての実態から対象外と整理する考え方もあり、明文の定めはない
  • 連結会社間の賃貸は対象外、非連結子会社や持分法適用関連会社への賃貸は対象(適用指針第3項)
  • 用途未定の住戸は「将来の使用が見込まれていない」かどうかで判断し、遊休化直後はこれまでの使用状況に照らす(第23項)
  • 時価は不動産鑑定評価基準による方法が原則で、重要性が乏しい場合にみなし時価算定が容認される(適用指針第11項、国土交通省「財務諸表のための価格調査の実施に関する基本的考え方」)。毎期フルの鑑定評価は必須ではなく、指標による調整も認められる(適用指針第12項)
  • 2024年改正で使用権資産が範囲に入ったが、その注記に時価は含まれない(2027年4月1日以後開始事業年度から適用)

高級マンションを社宅や賃貸用として保有される企業の経理・財務ご担当者にとって必要なのは、「載せるか載せないか」の二択ではなく、物件ごとの区分・算定方法・価格時点を一枚の設計図にしておくことです。設計図があれば、監査人からの質問にも即座に答えられます。

都心の高級マンション・タワーマンションの評価をご検討の方は、初回無料相談をご利用ください。保有物件の一覧と使用状況を拝見したうえで、原則的時価算定とみなし時価算定のどちらが適するか、鑑定評価書と価格等調査報告書のどちらを成果物とすべきかをご案内します。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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