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金利が1%上がると都心のマンション価格はいくら下がる?― 還元利回りで見る感応度

日銀の政策金利1.0%時代、都心マンションの価格はいくら下がるのか。還元利回りを0.25%刻みで動かした収益価格の試算と、借入金利の上昇で購入余力がどれだけ縮むかの計算を示し、実需中心の高級住宅と収益不動産で金利感応度が異なる理由を不動産鑑定士が解説します。

著者:吉田 健人·読了 約13
金利が1%上がると都心のマンション価格はいくら下がる?― 還元利回りで見る感応度

「日銀がまた利上げした。うちのマンションは、いくら下がるのだろうか」──2026年6月に政策金利が1.0%へ引き上げられて以降、こうしたご相談が目に見えて増えました。ニュースは「金利上昇は不動産価格の逆風」と繰り返しますが、では具体的に何%下がるのか、その根拠まで示した解説はほとんど見当たりません。

「金利が1%上がれば、価格は1割下がる」といった言い回しを耳にされた方もいらっしゃるでしょう。この種の目安には、致命的な前提の飛躍が含まれています。政策金利の変動幅と、不動産の価値を決める還元利回りの変動幅は、同じではないからです。

本記事では、私たち鑑定士が実際の評価で使う計算式に沿って、還元利回りが動いたときに価格がどれだけ動くのかを数値で示します。そのうえで、実需が中心の都心高級マンションと収益不動産とで、金利への感応度がなぜ異なるのかを整理します。なお本記事は将来の価格を予測するものではなく、価格がどのような構造で動くのかを説明するものです。

金利は不動産価格に二つの経路で効く

経路1:借入コストが「払える金額」を圧縮する

ひとつめは、購入者の資金調達コストを通じた経路です。住宅ローン金利が上がると、同じ月々の返済負担で借りられる元本が減ります。買主の予算上限が下がれば、売主が受け入れられる価格も下方に引っ張られます。実需(自ら居住する目的の購入)が中心の住宅市場では、この経路が主役です。

経路2:還元利回りの上昇が収益価格を押し下げる

ふたつめは、投資家の要求利回りを通じた経路です。国債利回りが上がれば、投資家が不動産に求める利回りも切り上がる圧力を受けます。鑑定評価では、これは還元利回り(純収益を価格に換算する際に用いる利回り)の上昇として現れ、収益価格を直接押し下げます。

都心の高級マンションは二つの経路の交点にある

港区や千代田区の1億円を超える住戸は、実需の購入者と、資産保全を目的とする法人・個人投資家の双方が買主になり得ます。だからこそ、どちらか一方の経路だけを見て「これだけ下がる」と語ることはできません。まず経路2から、計算で確かめていきましょう。

還元利回りが動くと価格はどれだけ動くか

価格は還元利回りに反比例する

直接還元法(1年間の純収益を還元利回りで割って価格を求める方式)の式は、収益価格 = 純収益 ÷ 還元利回り、というきわめて単純な形をしています。分母が大きくなれば価格は小さくなる。この反比例の関係が、金利感応度の正体です。

0.25%刻みで動かしたシミュレーション

還元利回り収益価格3.50%との差額変動率
3.50%1億2,000万円
3.75%1億1,200万円800万円減6.7%減
4.00%1億500万円1,500万円減12.5%減
4.25%9,882万円2,118万円減17.6%減
4.50%9,333万円2,667万円減22.2%減

還元利回りが3.50%から4.50%へ、つまり1.0ポイント上昇すると、収益価格は22.2%下がります。「金利1%で1割下落」という俗説より、はるかに大きい数字です。逆に言えば、この22.2%という数字は「還元利回りが本当に1.0ポイント上がったら」という条件つきの答えにすぎません。政策金利が1.0ポイント上がれば還元利回りも1.0ポイント上がる、という前提こそが検証されるべき論点です。

利回りが低い物件ほど、同じ幅の上昇に弱い

見落とされがちな性質があります。同じ0.25ポイントの上昇でも、もとの利回りが低いほど下落率は大きくなります。3.00%から3.25%への上昇は7.7%の下落、4.00%から4.25%なら5.9%、5.00%から5.25%なら4.8%です。

都心一等地の高級マンションは、希少性と流動性の高さゆえに低い利回りで取引されます。その低さは市場からの信頼の証ですが、同時に、利回りが同じ幅だけ動いたときの価格変動が大きいことを意味します。「都心なら安全」という感覚と、この計算結果は必ずしも一致しません。

政策金利1%上昇イコール還元利回り1%上昇ではない

実際のデータは逆を示している

ここが本記事の核心です。日本銀行の政策金利は、2024年3月のマイナス金利政策の解除以降、段階的に引き上げられ、2025年12月に0.75%、2026年6月16日には1.0%となりました(日本銀行「金融市場調節方針の変更について」2026年6月16日)。約31年ぶりの水準です。

では還元利回りはどうだったか。日本不動産研究所の「不動産投資家調査」によれば、東京・城南地区の賃貸住宅一棟の期待利回りは、第52回(2025年4月現在)でファミリータイプ3.8%・ワンルームタイプ3.7%、第54回(2026年4月現在)ではファミリータイプ3.7%・ワンルームタイプ3.6%。この1年で政策金利が0.5%から0.75%へ引き上げられた局面において、期待利回りはむしろ0.1ポイント低下しています。

賃料の上昇が分子を押し上げる

もうひとつ、式の分子を忘れてはいけません。収益価格 = 純収益 ÷ 還元利回り、ですから、還元利回りが上がっても純収益が同じ比率で増えれば、価格は変わりません。物価上昇を伴う金利上昇局面では、賃料も上昇圧力を受けます。金利上昇を「分母だけの話」として捉えると、判断を誤ります。収益還元法の考え方そのものについては、収益還元法をマンションでわかりやすくで詳しく整理しています。

実需の高級住宅と収益不動産では感応度が違う

借入金利が上がると、買える金額はどれだけ減るか

経路1を計算してみます。35年・元利均等返済で、金利1.0%なら1億円の借入に対する月々の返済額は約28.2万円です。この返済額を一定に保ったまま金利だけが上がると、借りられる元本は次のように減ります。

借入金利月々返済額同じ返済額で借りられる元本減少率
1.0%約28.2万円1億円
1.5%約30.6万円約9,220万円7.8%減
2.0%約33.1万円約8,520万円14.8%減
2.5%約35.8万円約7,896万円21.0%減

借入金利が1.0ポイント上がると、購入余力は約15%縮みます。ただしこれは「全額を借入で買う人」の話です。

自己資金比率が緩衝材になる

2億円の住戸を、自己資金1億円・借入1億円で購入する方を考えてみましょう。金利が1.0%から2.0%へ上昇しても、自己資金1億円は動きません。購入可能額は1億円+約8,520万円で約1億8,520万円、下落率は約7.4%にとどまります。全額借入の買主が受ける14.8%の、ちょうど半分です。

都心の高級マンション、とりわけ数億円規模の住戸では、自己資金比率の高い買主や、法人・海外居住者による現金取得の比率が相対的に高くなります。この構造が、金利上昇の衝撃を和らげます。逆に、フルローンに近い借入で購入される価格帯ほど、金利上昇の影響を直接受けます。同じ「マンション価格」でも、価格帯によって感応度は違うのです。

2026年の市場が示していること

73か月ぶりの下落をどう読むか

東日本不動産流通機構(東日本レインズ)の月例マーケットウォッチによれば、2026年5月の首都圏中古マンションの成約㎡単価は前年同月比3.9%の下落となり、2020年4月以来73か月ぶりにマイナスへ転じました。成約件数も前年同月比で減少し、在庫は増加しています。

この一点をもって「金利上昇による下落局面の始まり」と断じることはできません。月次データは季節性や高額物件の成約構成に左右されますし、四半期ベースで見れば東京都区部の成約㎡単価は2026年1〜3月期に137.96万円で前年同期比12.1%上昇と、53四半期連続の上昇が続いていました(東日本レインズ「季報Market Watch」2026年1〜3月期)。単月の反転と趨勢の転換は区別して読む必要があります。

私たち鑑定士は、市場の先行きを予測する立場にはありません。できるのは、価格時点(評価額を求める基準となる時点)における市場の状態を、取引事例と収益の両面から検証し、根拠を示すことです。相場観が揺れている局面ほど、この作業の価値は上がります。

判断が必要な場面では、数字の根拠を持つ

金利環境が動く局面では、売却の意思決定、財産分与の代償金の算定、法人保有資産の時価把握、担保評価の見直しなど、価格の裏づけを求められる場面が同時に増えます。売出価格の設定を誤ったときのコストについては億ションの売却、適正価格はどう見極める?を、金融機関の担保評価との考え方の違いについては担保評価と市場価値はなぜ違う?をご覧ください。

なお、借入や税務の具体的な取扱いについては、金融機関および税理士・弁護士にご確認ください。私たちがお示しできるのは、価格の水準とその根拠です。

まとめ

金利上昇が不動産価格に効く経路は、借入コストと還元利回りの二つです。どちらも計算で示せますが、政策金利の変動幅がそのまま還元利回りの変動幅になるわけではなく、実際のデータはむしろ逆方向の動きを示してきました。「金利1%で1割下落」という単純な目安に、根拠はありません。

要点を振り返ります。

  • 収益価格は純収益を還元利回りで割って求めるため、価格は還元利回りに反比例する
  • 純収益420万円の想定では、還元利回りが3.50%から4.50%へ1.0ポイント上がると収益価格は22.2%下がる
  • 同じ0.25ポイントの上昇でも、もとの利回りが低い物件ほど下落率は大きくなる
  • 政策金利が0.5%から0.75%へ上がった1年間に、東京・城南の期待利回りは0.1ポイント低下した
  • 借入金利が1.0ポイント上がると全額借入の買主の購入余力は約15%縮むが、自己資金5割なら約7%にとどまる
  • 2026年5月の単月データは73か月ぶりの下落だが、単月の反転と趨勢の転換は区別して読む必要がある

金利環境の変化を受けてご自宅や保有資産の価値を確かめておきたい所有者様、顧問先の資産評価の見直しを検討されている税理士・弁護士の先生方にとって、いま必要なのは相場観ではなく、価格時点における客観的な根拠です。私たちがお示しするのは、収益と取引事例の双方から検証した水準と、その導出過程です。

都心の高級マンション・タワーマンションの評価をご検討の方は、初回無料相談をご利用ください。金利環境を織り込んだ現時点の価格水準を確認したうえで、鑑定評価の必要性と概算費用をご案内します。

REFERENCES

  1. 日本銀行: 金融市場調節方針の変更について(2026年6月16日)
  2. 日本不動産研究所: 第54回 不動産投資家調査(2026年4月現在)
  3. 東日本不動産流通機構: 季報Market Watch サマリーレポート 2026年1〜3月期

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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