離婚・財産分与

ペアローンのマンションは離婚でどう分ける?― 名義・債務・時価の三層で整理する

ペアローンで購入したマンションは離婚でどう分けるのか。名義・債務・時価の三層に分けて整理し、免責的債務引受に金融機関の承諾が必要な理由、持分移転に伴う税、時価の誤差が代償金に増幅される構造を、想定ケースの試算とともに不動産鑑定士が解説します。

著者:吉田 健人·読了 約16
ペアローンのマンションは離婚でどう分ける?― 名義・債務・時価の三層で整理する

「マンションは私が住み続けたい。夫のローンだけ、名義を外してもらえないでしょうか」──ペアローン(夫婦がそれぞれ別々に住宅ローンを組み、二本のローンで一つの住宅を購入する方式)でご自宅を購入された方から、こうしたご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。その希望は、ご夫婦の合意だけでは実現できません。住宅ローンの債務者を入れ替えるには、貸している金融機関の承諾が必要だからです。ここを取り違えたまま協議を進めると、離婚協議書に署名した後で「銀行が認めなかった」という事態に直面します。

ペアローンの財産分与がこじれるのは、性質のまったく違う三つの問題が同時に走っているからです。不動産の名義(登記された持分)、ローンの債務、そして不動産の時価。決め方も、決める主体も違うこの三層を、どの順番でほどいていくのかを整理します。なお、個別の法的判断は弁護士に、税務の取扱いは税理士にご確認ください。

ペアローンの離婚が難しい本当の理由

名義・債務・時価は別々の問題である

三つの層を切り分けます。第一に債務。誰が金融機関に返すのかという問題で、決定権を持つのは金融機関です。ご夫婦がどう合意しようと、金融機関が首を縦に振らなければ動きません。第二に名義。登記上の持分を誰が持つのかという問題で、ご夫婦の合意(または裁判所の判断)で決められます。ただし移転には税金と登記費用がかかります。第三に時価。合意で決めるものではなく、市場の実態から把握するものです。

決定権の所在が違うこの三つを混ぜて議論すれば、話が前に進まないのは当然です。

「名義を外す」という言葉が招く誤解

ご相談の場でもっとも頻出する言葉が「名義を外す」です。しかしこの一言は、登記の持分を移すことと、ローンの債務者から抜けることの、まったく別の二つを指し得ます。

登記の持分は、財産分与を原因とする所有権移転登記で移せます。一方、ローンの債務者から抜けるには免責的債務引受(一方の債務を他方が引き受け、元の債務者が債務を免れること)が必要で、民法472条3項により、債務者と引受人が契約し、債権者が承諾することが要件とされています。金融機関の承諾なしに成立する余地はありません。

持分だけ移して債務はそのまま、という状態は法律上あり得ます。それは、家を出た側が住んでいない家のローンを払い続ける、最悪の形です。

第一層:ローンの契約類型を確認する

三つの類型で責任の重さが違う

ご自宅のローンがどの類型かを、まず契約書でご確認ください。呼び名は似ていても、法的な立ち位置は大きく異なります。

類型債務の本数不動産の名義相手の債務への責任
ペアローン2本(各自が主債務者)通常は共有相互に連帯保証となるのが一般的
連帯債務型1本を2人が連帯負担通常は共有全額について責任を負う
連帯保証型1本(債務者は1人)債務者の単独名義が通常保証人として全額の責任

連帯債務は民法436条に定めがあり、債権者は連帯債務者の一人に全額を請求できます。連帯保証は民法454条により、催告の抗弁(まず主債務者に請求せよと言う権利)も検索の抗弁(主債務者の財産から取り立てよと言う権利)も持ちません。いずれも「半分だけ責任を負う」制度ではない点が共通しています。

なお、ペアローンで相互に連帯保証人となっているかは個別の契約次第です。実務上は相互連帯保証が一般的ですが、必ずご自身の契約書でお確かめください。

借換えが現実的な出口になる

金融機関が免責的債務引受を承諾するのは、残される側の単独の返済能力で全額を賄えると判断できる場合に限られます。夫婦二人の収入を前提に組んだローンですから、単独で通るとは限りません。そこで実務上多く採られるのが、引き取る側が自分名義で新たなローンを組み、二本分を一括で返済する借換えです。

第二層:持分を移すときに動くお金

財産分与を原因とする移転登記

持分の移転には登録免許税がかかります。所有権移転登記の税率は「その他の原因」として1,000分の20、つまり2%です(国税庁タックスアンサーNo.7191)。財産分与はこの区分に当たり、売買の土地に適用される軽減税率や、相続の0.4%は使えません。

渡した側に譲渡所得課税が生じ得る

見落とされやすい論点です。財産分与として不動産を渡した側には、譲渡所得の課税が行われることがあります。分与した時の時価が収入金額とされ、取得費との差額が課税対象になります(国税庁タックスアンサーNo.3114)。「無償で渡すのだから課税されない」という理解は誤りです。値上がりした都心のマンションでは、この含み益が数千万円規模になることも珍しくありません。

なお、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除は、配偶者など特別の関係がある人への譲渡には適用されません(同No.3302)。離婚届の提出後に元配偶者へ分与すればこの除外に当たらないという整理が一般的ですが、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までという期間要件など、他の要件も満たす必要があります。順序ひとつで結論が変わるため、実行前に必ず税理士にご確認ください。

不動産取得税と住宅ローン控除

不動産取得税については、清算的財産分与は実質的に夫婦共有財産の清算であって「不動産の取得」に当たらない、とする解釈運用がとられています。ただし慰謝料の代わりや扶養の趣旨で取得した場合は課税されるとされ、運用は都道府県で分かれます。所在地を管轄する都道府県税事務所にご確認ください。

住宅ローン控除については、財産分与で居住用家屋の共有持分を追加取得した場合、その持分についても新たに取得したものとして適用を受けられる旨が示されています(同No.1237)。逆に家を出る側は「その年の12月31日まで引き続き居住していること」という要件を満たさなくなるため、転居した年以後は原則として控除を受けられません(同No.1211-1)。

第三層:時価が決まらなければ分け方は決まらない

純資産は時価から残債を引いて求める

分けるべき対象は、マンションそのものではなく、時価から残債を差し引いた純資産です。残債は残高証明書で一円まで確定しますが、時価に確定した数字はありません。ここが、ペアローンの財産分与でもっとも揺れる部分です。

想定されるケースで確かめます。6年前に2億円で購入した都心のタワーマンション。ペアローンの残債は夫1億200万円、妻6,800万円、合計1億7,000万円とします。

前提とする時価残債合計純資産2分の1の取り分
2億2,000万円1億7,000万円5,000万円2,500万円
2億4,000万円1億7,000万円7,000万円3,500万円
2億6,000万円1億7,000万円9,000万円4,500万円

時価の見立てが4,000万円動くだけで、代償金は2,000万円動きます。時価に対する差は約18%ですが、代償金に対する差は80%です。残債という固定値を引いた残りを分けるため、時価の誤差は代償金に増幅されて跳ね返ります。 借入の残る不動産を分ける場合に固有の性質です。

高級マンションほど査定の幅が広がる

億単位の住戸では、そもそも同一マンション内の取引事例が乏しく、階層や向き、眺望、専有面積の違いを補正する余地が大きくなります。査定額が数千万円単位で割れるのは、担当者の力量というより補正の置き方に幅があるためです。仲介査定と鑑定評価の違いは仲介査定と不動産鑑定はどう違う?で整理しています。

2026年の市場環境も判断を難しくしています。東日本不動産流通機構の月例マーケットウォッチによれば、2026年7月の東京都区部の中古マンション成約㎡単価は135.77万円で前年同月比2.7%の上昇でしたが、成約件数は同17.2%の減少、首都圏の在庫は同5.5%の増加でした。価格は上を向きながら動きは細っており、こうした局面では売出価格と成約価格の乖離が広がりやすくなります。

基準時をどこに置くか

財産分与では、いつ時点の価値を前提にするかも論点です。一般に、財産の範囲は別居時、評価額は分割時(協議・審判の時点)を基準とする扱いが多いとされます。詳しくは財産分与の不動産評価は別居時?裁判時?をご覧ください。私たち鑑定士は価格時点(評価額を求める基準となる時点)を明示して評価しますので、どの時点の数字が必要かは事前にご相談ください。

借換えの可否で分岐する三つの道

CASE STUDY事例に基づく架空シナリオ

想定ケース:時価2億4,000万円・残債1億7,000万円のタワーマンション

夫が引き取る場合に必要な借入額を試算した想定例(実在の事案ではありません)

純資産は7,000万円、2分の1ずつなら各3,500万円です。夫がマンションを引き取る場合、必要な資金は自分の残債1億200万円、妻の残債の肩代わり6,800万円、妻への代償金3,500万円の合計2億500万円。時価2億4,000万円に対する借入比率は約85%です。この金額を単独の収入で借りられるかどうかが、選択肢を分ける分岐点になります。

道1:一方が単独で借換えできる場合

もっとも希望に沿う形です。引き取る側が新規ローンで二本分を一括返済し、同時に持分の移転登記を行い、代償金を支払います。三つを同日に実行する必要があるため、金融機関・司法書士・双方の代理人の日程調整が要ります。代償金の額の根拠が曖昧だと、後々の紛争の火種になります。

道2:借換えができない場合──売却して清算する

単独審査に通らない場合、マンションを売却し、代金でローンを完済して残りを分けるのが、もっとも清算関係の残らない方法です。想定ケースでは純資産7,000万円がそのまま分配原資になります。

ただし売出価格を高く置きすぎれば売れ残り、値下げを重ねた末に想定を下回る価格で成約する、という経過をたどることがあります。売出価格設定のコストは億ションの売却、適正価格はどう見極める?をご覧ください。

道3:当面は共有のまま維持する場合

子どもの学区の都合などから、当面は共有名義・ローンもそのままで一方が住み続ける選択が採られることがあります。心情は理解できますが、リスクは残ります。

家を出た側は、住んでいない不動産の債務を負い続けます。相手が返済を怠れば連帯保証人として請求を受け、信用情報に借入が残るため新たな住宅の購入も制約されます。将来の売却時に相手の協力が得られなければ、共有物分割の手続きに進むほかありません。

この道を選ぶなら、少なくとも「いつまでに、どういう条件で解消するか」を、時価の把握方法まで含めて書面で定めておくべきです。

期限と割合について押さえておくこと

請求できる期間は5年に延びた

2024年成立の民法等改正により、財産分与を家庭裁判所に請求できる期間が離婚の時から2年から5年に延長され、2026年4月1日に施行されました(民法768条2項ただし書)。ただし改正法附則4条により、5年が適用されるのは同日以後に離婚した場合で、それ以前に離婚された方は従来どおり2年で判断する必要があります。

2分の1ルールは条文になったが、協議を縛るものではない

同じ改正で民法768条3項に考慮要素が明文化され、寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは相等しいものとする、と定められました。いわゆる2分の1ルールが条文の形をとったものです。もっとも、この規定の名宛人は家庭裁判所であり、協議での合意を法が2分の1に強制するものではありません。当てはめは弁護士にご確認ください。

まとめ

ペアローンの財産分与は、名義・債務・時価という三つの層に分けて考えると見通しが立ちます。合意で動かせるのは名義だけであり、債務は金融機関の判断に、時価は市場の実態に委ねられています。決定権の所在を取り違えたまま協議を進めることが、合意の後戻りを招く最大の原因です。

要点を振り返ります。

  • 債務者の入れ替えには免責的債務引受が必要で、民法472条3項により金融機関の承諾が要件。夫婦の合意だけでは成立しない
  • 実務では、引き取る側が単独で借換えて二本分を一括返済する方法が現実的な出口になることが多い
  • 持分の移転には登録免許税2%がかかり、渡した側に譲渡所得課税が生じ得る。3,000万円特別控除は離婚成立の前後で扱いが変わる
  • 分ける対象は時価から残債を引いた純資産のため、時価の誤差は代償金に増幅される。想定ケースでは時価18%の差が代償金80%の差になった
  • 共有のまま維持する選択には、家を出た側に債務と信用情報の負担が残る。解消の条件と時価の決め方を書面化しておく
  • 請求期間は2026年4月1日以後の離婚について5年に延長されたが、それ以前の離婚は従来どおり2年

ペアローンでご自宅を購入され、これから協議に入られるご本人様、依頼者の見通しを立てる必要がある弁護士の先生方にとって、最初に固めるべきは時価です。時価が定まって初めて、借換えが可能な金額なのか、代償金がいくらになるのかという議論に進めます。

都心の高級マンション・タワーマンションの評価をご検討の方は、初回無料相談をご利用ください。ご事情をうかがったうえで、鑑定評価書と価格等調査報告書のどちらが適しているか、概算費用とあわせてご案内します。

REFERENCES

  1. e-Gov法令検索: 民法(明治二十九年法律第八十九号)
  2. 法務省: 民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)
  3. 国税庁タックスアンサー No.3114 離婚して土地建物などを渡したとき
  4. 国税庁タックスアンサー No.1237 離婚による財産分与で居住用家屋の共有持分を追加取得した場合の住宅借入金等特別控除
  5. 国税庁タックスアンサー No.7191 登録免許税の税額表
  6. 東日本不動産流通機構: 月例速報 Market Watch 2026年7月度

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

FREE CONSULTATION

鑑定が必要かどうかのご相談だけでも歓迎です

記事に関連するお悩みについて、不動産鑑定士に直接ご相談いただけます。

関連記事

電話で相談無料相談を申込む