小規模宅地等の特例はタワーマンションにも使えるか ― 適用可否を分ける3つの判定ポイント
小規模宅地等の特例はタワーマンションの敷地利用権にも使えます。ただし住戸の使われ方・取得者・区分所有補正率との計算順序で適用可否と減額額は大きく変わります。同一マンション内の親子近居が「同居」と認められない落とし穴まで、不動産鑑定士が解説します。

「小規模宅地等の特例は、土地を持っている人のための制度でしょう。タワーマンションのように敷地の持分がわずかしかない住戸では、たいして意味がないのではないか」──相続のご相談をいただく中で、こうしたお声を何度も伺ってきました。逆に「特例で8割引きになるから、タワマンなら相続税はほとんどかからないはずだ」と、効果を過大に見積もっておられる方もいらっしゃいます。
結論から申し上げます。小規模宅地等の特例は、タワーマンションの敷地利用権にも使えます。ただし使えるかどうかは住戸の「使われ方」と「取得する人」で決まり、2024年(令和6年)から始まった区分所有補正率との組み合わせで減額額の意味合いも変わりました。特に注意していただきたいのは、親子が同じマンションの別の住戸に住んでいるケースが「同居」と認められない点です。
私たち鑑定士は税額そのものを計算する立場ではありませんが、特例の対象となる敷地利用権の価額が市場の実勢とどれだけ離れているかを測る仕事を通じて、この制度の効き方を見てきました。本記事では、適用可否を分ける3つの判定ポイントを整理します。
そもそも小規模宅地等の特例とは何か
対象は「宅地等」であって建物ではない
小規模宅地等の特例(租税特別措置法第69条の4。相続した宅地等の評価額を一定面積まで減額する制度)は、被相続人が住んでいた土地や事業に使っていた土地について、相続税の課税価格に算入する金額を減らす制度です。区分ごとの限度面積と減額割合は次のとおりです。
| 宅地等の区分 | 限度面積 | 減額割合 |
|---|---|---|
| 特定居住用宅地等 | 330㎡ | 80% |
| 特定事業用宅地等 | 400㎡ | 80% |
| 貸付事業用宅地等 | 200㎡ | 50% |
ここで見落とされやすいのが、この特例が減らすのはあくまで「宅地等」の価額であり、建物の価額は一切減らないという点です(国税庁タックスアンサーNo.4124)。
マンションでは敷地利用権が対象になる
分譲マンションの相続税評価額は、「敷地利用権(土地の持分)の価額」と「区分所有権(建物)の価額」の合計で構成されます。このうち特例の対象になるのは、敷地利用権の部分だけです。
戸建てであれば評価額に占める土地の割合が高いため、減額インパクトは大きくなります。一方タワーマンションは、1棟の敷地を数百戸で分け合う構造上、1住戸あたりの敷地利用権の面積が極端に小さくなります。専有面積60㎡の住戸で、敷地利用権の面積が10㎡台ということも珍しくありません。
つまりタワーマンションでは、限度面積の330㎡はまず使い切りません。土地部分が評価額全体に占める比率も戸建てより低い。これが「たいして意味がないのでは」という感覚の正体です。ただし都心の高額住戸では土地の単価そのものが極めて高いため、減額の絶対額は決して小さくありません。
判定ポイント1:その住戸はどう使われていたか
自宅・賃貸・空室・セカンドハウスで扱いが分かれる
第一の分岐は、被相続人が亡くなった時点でその住戸がどう使われていたかです。
- 被相続人が自宅として住んでいた:特定居住用宅地等(330㎡・80%減)の候補になります
- 第三者に賃貸していた:貸付事業用宅地等(200㎡・50%減)の候補になります
- セカンドハウス・別荘として保有していた:居住の用にも貸付の用にも供していないため、原則として特例の対象外です
- 空室のまま保有していた:貸付事業が継続していたと認められるかが論点になり、単に空いていただけでは対象外と扱われる余地があります
都心のタワーマンションは、地方に本宅がある方の「都内の拠点」として保有されているケースが少なくありません。この使われ方は、居住用としても貸付用としても認められないおそれがあります。住民票の所在だけでなく生活の本拠がどこにあったかという実態で判断される領域ですので、必ず税理士にご確認ください。
賃貸に切り替えるなら3年ルールに注意
「相続が近いから貸付事業用にしておこう」という発想には、歯止めがかかっています。相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、原則として貸付事業用宅地等から除外されます(措置法第69条の4第3項第4号。事業的規模で貸付事業を行っていた場合の例外あり)。
直前の駆け込み賃貸で50%減額を取りにいく設計は機能しない、と理解しておくのが安全です。
判定ポイント2:誰が取得するか ― タワマン特有の「同居」の壁
取得者ごとの要件
特定居住用宅地等として80%減額を受けるには、取得者が次のいずれかに当てはまる必要があります。
| 取得者 | 主な要件 |
|---|---|
| 配偶者 | 追加要件なし |
| 同居していた親族 | 申告期限まで居住を継続し、かつ保有を継続 |
| 別居の親族(いわゆる家なき子) | 配偶者・同居法定相続人がいないこと、相続開始前3年以内に自己または一定の親族等が所有する家屋に居住していないこと等 |
配偶者が取得する場合が最も要件が緩やかで、同居親族、別居親族の順に条件が厳しくなります。
同じマンションの別住戸は「同居」ではない
ここがタワーマンションで最も誤解の多い論点です。
親が高層階の住戸に、子が同じマンションの低層階の住戸に住んでいる。日常的に行き来し、食事も一緒にとっている。感覚としては「同居」でしょう。しかし分譲マンションの各住戸はそれぞれ独立して区分所有登記されており、法的には別々の建物です。二世帯住宅を区分所有登記した場合に親世帯と子世帯が同居と認められないのと同じ構造で、同一マンション内の別住戸も「同居していた親族」には該当しないと考えるのが原則です。
しかも厄介なことに、この子は自己所有の家屋に住んでいるため、家なき子としての要件も満たしません。つまり同居親族にも家なき子にも当てはまらず、特定居住用宅地等の80%減額を受けられないという結果になり得ます。「親のすぐ近くにいたのだから当然使えるだろう」という思い込みが、最も高くつく場面です。
判定ポイント3:区分所有補正率適用後の価額に特例をかける
適用の順序
2024年(令和6年)1月1日以後の相続・贈与から、居住用の区分所有財産には区分所有補正率が適用されています(国税庁「居住用の区分所有財産の評価について」法令解釈通達)。
計算の順序は次のとおりです。
- 路線価方式等で敷地利用権の自用地としての価額を求める
- これに区分所有補正率を乗じる
- 貸家建付地に該当する場合はその評価減を行う
- 補正後の価額を基礎として、小規模宅地等の特例を適用する
国税庁が公表した「居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A」(令和6年5月、資産評価企画官)でも、貸家建付地の評価および小規模宅地等の特例の適用は、区分所有補正率を適用して計算した価額を基に行うこととされています。
補正で評価が上がるほど、特例の減額額も増える
この順序には、直感に反する効果があります。区分所有補正率はタワーマンションの評価額を引き上げる方向に働きますが、その引き上げ後の価額に80%減額をかけるため、減額される金額そのものは補正前より大きくなるのです。
もちろん課税価格が下がるわけではありません。補正で増えた分の2割は課税価格に残ります。ただ「補正率で評価が上がった=一方的に不利になった」と単純化するのは正確ではない、ということです。
想定されるケースで金額の動きを確認する
都心タワーマンション1住戸を相続するケース
築5年・総階数40階・所在階30階・専有面積60㎡・敷地利用権の面積12㎡の住戸を想定します。
前提となる評価額(区分所有補正率の適用前)
- 敷地利用権:2,000万円
- 区分所有権(建物):1,200万円
- 合計:3,200万円
このケースの区分所有補正率を2.157倍と仮定すると、補正後は敷地利用権が4,314万円、建物が2,588万円、合計6,902万円になります。
配偶者または同居親族が取得し、特定居住用宅地等に該当する場合
敷地利用権の面積は12㎡で、限度面積330㎡の範囲内に十分収まります。したがって敷地利用権の全額が80%減額の対象です。
- 減額される金額:4,314万円 × 80% = 3,451万円
- 課税価格に算入される金額:6,902万円 − 3,451万円 = 3,451万円
同一マンション内の別住戸に住む子が取得し、特例を使えない場合
- 課税価格に算入される金額:6,902万円
判定ポイント2を満たすかどうかだけで、課税価格に3,451万円の差が生まれる計算です。
3,451万円
このケースで特例により減額される金額
補正後の敷地利用権4,314万円に特定居住用宅地等として80%減額を適用した場合の試算
上記はあくまで制度の効き方を示すための単純化した試算であり、実際の税額は他の財産・債務・基礎控除・税額控除によって変わります。個別の申告における取り扱いは、必ず税理士にご確認ください。
限度面積が余ることの意味
このケースで使った面積はわずか12㎡、330㎡の枠は318㎡分が余ります。タワーマンション住戸は面積あたりの単価が突出して高いため、面積を食わずに減額額を稼げるという性質があります。枠の使い方は、面積ではなく1㎡あたりの評価額で考えるのが合理的です。
評価額の妥当性そのものを疑うべき場面
補正後の価額が実勢より高いことがある
区分所有補正率は、築年数・総階数・所在階・敷地持分狭小度という4つの形式的な指標だけで計算されます。眺望が隣接ビルの建設で失われた、住戸内の状態が著しく劣る、管理組合が機能不全に陥っているといった、市場で確実に価格に反映される個別事情は、算式のどこにも入っていません。
その結果、補正後の通達評価額が、その住戸の実際の時価を上回ってしまうケースが起こり得ます。特例で8割減額したとしても、出発点の評価額自体が過大であれば、課税価格は本来より高いままです。
鑑定評価が選択肢になる条件
財産評価基本通達による評価額が時価を上回ると考えられる場合、不動産鑑定士による鑑定評価書で適正な時価を立証し、時価による申告を検討する余地があります。私たちが行うのは通達評価額と市場の実勢との距離を客観的な資料として示すところまでで、申告方針の決定は税理士の領域になります。
補正率そのものの計算手順は区分所有補正率の計算方法とタワーマンション相続税評価の基礎で、相続後に住戸をどうするかの判断は相続したマンションは売る?貸す?住む?で整理しています。
まとめ
小規模宅地等の特例はタワーマンションでも使えますが、適用可否は「使われ方」「取得者」「評価額の計算順序」という3つの判定を通過できるかで決まります。特に同一マンション内の親子近居が同居と認められない点は、都心の高額住戸で最も損失の大きい落とし穴です。
要点を振り返ります。
- 特例が減額するのは敷地利用権(土地)の価額のみで、建物部分には及ばない
- 自宅なら330㎡・80%、賃貸なら200㎡・50%。セカンドハウスは原則対象外で、直前の賃貸開始は3年ルールで除外される
- 同一マンションの別住戸に住む子は、区分所有登記されているため「同居親族」に該当せず、自己所有家屋に住むため家なき子にも該当しない
- 区分所有補正率を適用した後の価額を基礎に特例を適用するため、補正で評価が上がるほど減額される金額も大きくなる
- 敷地利用権の面積は小さく限度面積を使い切らないため、枠は面積ではなく1㎡あたりの評価額で配分を考える
- 補正後の評価額が実勢の時価を上回る場合、鑑定評価による時価立証が申告の選択肢になる
タワーマンションを相続される方、ご家族の住まい方をこれから検討される方、顧問先の申告で評価方針を検討中の税理士の先生にとって、評価額そのものの妥当性は税額と同じくらい重要な論点です。税務判断は税理士に、評価額の検証は鑑定士に。役割を分けて進めることで、根拠のある申告に近づきます。
都心の高級マンション・タワーマンションの評価をご検討の方は、初回無料相談をご利用ください。相続税評価額と市場の実勢との距離を確認したうえで、鑑定評価の必要性と概算費用をご案内します。
REFERENCES
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
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