相続

タワーマンション相続税評価の基礎 ― 区分所有補正率と時価乖離をどう捉えるか

2024年に導入された区分所有補正率は、タワーマンションの相続税評価をどう変えたのか。鑑定評価が果たす役割と、活用すべき場面を不動産鑑定士の視点から整理します。

著者:吉田 健人·読了 約8
タワーマンション相続税評価の基礎 ― 区分所有補正率と時価乖離をどう捉えるか

タワーマンションの相続税評価は、2024年(令和6年)1月1日以降の相続・贈与から大きな見直しが入りました。長年「節税策」として注目されてきた区分所有マンションの相続税評価が、市場価格との乖離を埋める方向で改正されたのです。

しかし、補正率が導入されたあとも、「鑑定評価による適正な時価の立証」というニーズは消えていません。むしろ、税務当局・納税者双方にとって「どこからが許容される評価で、どこからが過大・過小か」を判断する基準として、鑑定評価書の役割は重みを増しています。

区分所有補正率とは何か

改正前の評価方法

改正前のタワーマンションの相続税評価は、土地(路線価×敷地権割合)と建物(固定資産税評価額)を単純に積み上げて算出されていました。この方式では、特に高層階・湾岸エリアなど市場価格が高い区分所有部分について、相続税評価額が市場価格の30〜40%程度にまで圧縮されることが珍しくありませんでした。

これがいわゆる「タワマン節税」の構造であり、富裕層の相続税対策として広く認識されてきた経緯があります。

改正後の補正率の仕組み

国税庁は2023年9月に法令解釈通達「居住用の区分所有財産の評価について」を発出し、居住用の区分所有マンションについて新たな評価方法を定めました。骨子は次のとおりです。

改正前

市場価格1億円のタワマン高層階

相続税評価額:約4,000万円

(市場価格の約40%)

改正後

同じ物件

相続税評価額:約6,000万円

(市場価格の60%まで引き上げ)

具体的には、評価水準(従来の評価額 ÷ 想定市場価格)が0.6未満の物件について、評価水準が0.6になるよう補正率を乗じます。補正率は、築年数・総階数・所在階・敷地持分狭小度の4つの要素から算定されます。

鑑定評価による時価立証はなぜ必要か

通達評価が時価より高くなるケース

意外に思われるかもしれませんが、補正率導入後は「通達評価が市場価格を上回る」ケースも生じます。たとえば次のような物件です。

  • 築古で管理状態が悪く、市場価格が大幅に下落しているタワマン
  • 周辺のマンション過剰供給により、市場が軟調なエリアの物件
  • 管理組合の運営が機能不全に陥り、修繕積立金不足が市場で嫌気されている物件

こうした物件で「補正率を機械的に当てはめた相続税評価額」をそのまま申告すると、過大な相続税を負担することになります。

0.6

補正後の評価水準

市場価格に対する相続税評価額の比率(補正率0.6未満物件のみ対象)

通達評価が時価より低すぎるケース

逆に、依然として「通達評価が市場価格と乖離している」ケースも存在します。眺望・階層プレミアムが極めて大きい物件、希少性の高いブランドマンションでは、補正率を当てはめても実勢の市場価格には届きません。

このような物件で過小な通達評価で申告すると、令和4年最高裁判決で示されたように「総則6項」(評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる場合)の適用リスクを抱えることになります。

鑑定評価書の活用シナリオ

シナリオ1:通達評価を下回る時価の立証

CASE STUDY事例に基づく架空シナリオ

管理不良が顕在化した築20年タワマンの相続

補正率を当てはめた相続税評価額が、実際の市場価格を上回ってしまったケース

被相続人が保有していた湾岸エリアのタワーマンション中層階。築20年が経過し、修繕積立金の不足や管理組合の運営課題が市場で嫌気されており、近隣の同条件物件と比べて取引価格が下落していた。

相続税申告にあたり、改正後の補正率を機械的に適用すると、相続税評価額が直近の取引水準を上回る試算となった。鑑定評価により、当該マンションの個別事情を踏まえた適正な時価を提示することで、申告における評価額立証の基礎資料を整えることができた。

シナリオ2:申告時点での時価変動への備え

不動産市場は短期間でも大きく変動します。とくに高級マンション市場は、金融政策・為替・海外投資家の動向の影響を強く受けます。相続発生時点(被相続人の死亡日)と申告時点(10ヶ月後)とで市場が大きく変化している場合、申告期限までの時価を客観的に把握しておくことには意味があります。

鑑定評価をいつ依頼すべきか

実務的には、次のタイミングで鑑定評価のご相談をいただくことが多くなります。

  1. 相続発生直後:被相続人の保有物件を整理する段階で、鑑定が必要かどうかを判断
  2. 申告書作成中:税理士から「通達評価と市場価格に乖離がありそう」との指摘を受けた段階
  3. 申告後の修正・更正請求:すでに申告した内容を見直す場面
  4. 生前の資産整理:相続税対策の一環として、現時点での適正な時価を把握したい場合

まとめ

  • 2024年の区分所有補正率の導入により、タワーマンションの相続税評価は市場価格に近づく方向で見直された
  • ただし「市場価格×0.6」が下限であり、個別物件の特殊性は補正率の算定式では捉えきれない
  • 鑑定評価による時価立証は、通達評価が時価を上回る場合・下回る場合の双方で意義を持つ
  • 鑑定の依頼タイミングは、申告期限から逆算して計画的に検討することが望ましい

高級マンション・タワーマンションの相続税評価について、鑑定評価が必要かどうか迷われている方は、ぜひお気軽にご相談ください。

REFERENCES

  1. 国税庁: 居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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