相続

相続直前のマンション購入は否認される?― 令和4年最高裁判決が示す境界線

相続直前のマンション購入による節税は、税務署に否認されるリスクがあります。令和4年最高裁判決の教訓と、否認されやすい4つの要素、健全な対策との境界線を不動産鑑定士が整理します。

著者:吉田 健人·読了 約6
相続直前のマンション購入は否認される?― 令和4年最高裁判決が示す境界線

「タワーマンションを買えば相続税を大きく減らせる」── そう聞いて、相続を意識し始めたタイミングでのマンション購入を検討している方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、相続直前のマンション購入は、税務署に評価を否認されるリスクをはらんでいます。実際に、令和4年4月19日最高裁判決では、相続直前に借入で購入したマンションの通達評価が否定され、多額の追徴課税が確定しました。

本記事では、この判決の教訓と、否認されやすい要素、そして健全な対策との境界線を、不動産鑑定士の視点で整理します。

令和4年最高裁判決(総則6項)の教訓

事案の概要

被相続人は90歳を超えた高齢で、金融機関からの多額の借入によりマンション2棟を購入しました。相続人は財産評価基本通達(相続財産の評価方法を定めた国税庁の通達)に基づき約3.3億円と評価して申告しましたが、国税側は鑑定評価により約12.7億円と算定。約4倍の乖離が問題となりました。

総則6項とは

否認の根拠となったのが、財産評価基本通達の総則6項(通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産は、国税庁長官の指示を受けて評価する、とする例外規定)です。最高裁は総則6項による評価を適法と判断しました。

判決が示した基準

重要なのは、最高裁が「通達評価と時価の乖離があるだけでは否認できない」と述べた点です。否認が正当化されるのは、租税負担の軽減を意図して購入等を行い、実質的な租税負担の公平に反する事情がある場合とされました。つまり「乖離+意図的な節税スキーム」が揃ったときに否認リスクが顕在化します。

約4倍

令和4年最高裁事案における評価乖離

通達評価約3.3億円に対し、鑑定評価は約12.7億円

相続直前のマンション購入が否認されやすい4つの要素

判決の事実関係から、否認リスクを高める要素は次のように整理できます。

要素内容
借入購入資金の大半を借入で調達し、債務控除も併用している
直前相続開始の直前(数年以内)の駆け込み購入である
高齢被相続人が高齢・病気等で、相続を具体的に意識できる状況だった
売却前提相続後まもなく売却しており、保有目的が節税と推認される

これらが複数重なるほど、「租税負担の軽減を意図した行為」と認定されやすくなります。逆に言えば、一つひとつの要素は通常の資産運用でも起こり得るものであり、線引きは事案ごとの総合判断です。

健全な対策との境界線

経済合理性のある購入か

賃貸収益や居住目的など、節税以外の合理的な目的と実態を伴う購入であれば、直ちに否認されるものではありません。問題となるのは、節税効果の試算だけを目的に、実需のない物件を駆け込みで取得するケースです。

新しい通達による評価の補正

令和6年からは、居住用の区分所有財産の評価に関する通達により、いわゆるタワーマンションの相続税評価は市場価格との乖離を補正する仕組みに変わりました。従来ほど極端な乖離は生じにくくなっていますが、それでも高級マンションでは評価差が残る場合があり、総則6項のリスクが消えたわけではありません。

時価の把握が出発点

否認リスクを検討する前提として、そもそも対象マンションの時価(市場価値)がいくらなのかを客観的に把握することが不可欠です。通達評価との乖離がどの程度なのかを知らないまま購入を進めるのは、リスクの大きさを測らずに走り出すようなものです。当事務所のような高級マンション・タワーマンションを専門とする不動産鑑定事務所による鑑定評価書は、通達評価と時価の乖離の程度を定量的に把握し、税理士と対策方針を協議するための基礎資料となります。

購入の目的と経緯を記録に残す

賃貸事業としての収支計画、居住の必要性、資金計画の検討資料など、購入に至る合理的な目的と経緯を示す資料を残しておくことも重要です。総則6項の適用が争われる場面では、「なぜ・いつ・どのような目的で購入したのか」という事実関係が判断の中心になるためです。時価を把握したうえで、節税効果に依存しない意思決定であったことを説明できる状態にしておくことが、健全な対策と危険な駆け込み購入とを分ける実務上の境界線と言えます。

まとめ

  • 令和4年4月19日最高裁判決は、総則6項による否認を適法と判断した
  • 乖離だけでは否認されず、「借入・直前・高齢・売却前提」等の事情が重なると危険
  • 令和6年からの新通達で乖離は縮小したが、否認リスクが消えたわけではない
  • 対策の出発点は、鑑定評価による客観的な時価の把握

相続を控えた資産家の方、顧問先の対策を検討される税理士の先生は、ぜひ一度ご相談ください。初回の無料相談で、鑑定評価の必要性と概算費用をご案内します。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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