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ドル建てで見ると都心マンションは上がっていない?― 円安と価格のズレを鑑定士が解説

東京のマンション価格指数は2020年10月から2026年4月にかけて円建てで13.9%上昇しました。ところが同期間に円は対ドルで約34.5%下落しており、ドル建てに直すと25.4%の下落です。海外マネーが価格に効く3つの経路と、鑑定評価が為替を前提に置かない理由を不動産鑑定士が整理します。

著者:吉田 健人·読了 約16分
ドル建てで見ると都心マンションは上がっていない?― 円安と価格のズレを鑑定士が解説

「円安で外国人が都心のマンションを買い漁っているから、価格がここまで上がったのだ」──この説明を、ニュースでもご相談の場でも繰り返し耳にします。実際、東京23区の新築マンションの平均価格は1億円を大きく超え、都心6区では2億円に迫る水準に達しました。円が1ドル150円台後半で推移している事実と並べれば、因果関係があるように見えます。

ところが、同じ価格を外貨に直して眺めると、まったく違う風景が現れます。円建てでは上昇を続けてきた東京のマンション価格が、ドル建てでは5年半前の水準を大きく下回っているのです。海外の買主から見れば、東京の不動産は「値上がりした資産」ではなく「安くなった資産」でした。

どちらの見え方が正しいのか。答えは「どちらも正しい。ただし、答えるべき問いが違う」です。本記事では、為替がマンション価格に効く経路を数字で分解し、円建ての価格とドル建ての価格がなぜここまでズレるのかを整理します。あわせて、鑑定評価が為替を価格の前提に置かない理由もご説明します。なお本記事は将来の為替や価格を予測するものではなく、特定の投資判断を推奨するものでもありません。

円安はどこまで進んだのか、まず数字で確かめる

5年半で1ドル104円から159円へ

出発点となる為替水準を確認します。七十七銀行が公表する米ドル対円相場(仲値)の月間平均は、2020年10月が104.35円、2026年4月が159.40円でした。2026年9月も月間平均155.95円と、150円台後半の水準が続いています。

この間にドルは円に対して約52.8%上昇し、逆から見れば円は約34.5%下落しました。同じ「1ドル」を手に入れるために必要な円が、1.5倍になったという意味です。

同じ2億円の住戸が、ドルでいくらになるか

都心6区の新築マンションの平均価格は、2025年で1戸あたり1億9,503万円でした(株式会社不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2025年のまとめ」2026年1月26日公表)。きりのよい2億円の住戸を想定し、為替水準を変えてドル建ての金額を見てみます。

為替水準円建て価格ドル建て価格104.35円時点との差
104.35円2億円約192万ドル―
130円2億円約154万ドル19.7%減
150円2億円約133万ドル30.4%減
159.40円2億円約125万ドル34.5%減

円建ての価格は1円も動いていません。それでも、ドルを持つ買主が支払う金額は3分の1以上軽くなりました。これが「海外から見た割安感」の正体です。円は主要通貨に対して広く下落してきましたから、台湾ドルやシンガポールドルを持つ買主にも、程度の差はあれ同じ方向の効果が働きます。

円建てとドル建てで、価格の姿はここまで違う

東京のマンション価格指数は円建てで13.9%の上昇

為替の効果を測るには、同じ物件を継続的に評価した指数を使うのが適切です。新築マンションの平均価格は、その年にどの立地のどんな規模の物件が売り出されたかで上下するため、価格自体の動きと供給構成の動きが混ざってしまうからです。

一般財団法人日本不動産研究所の「国際不動産価格賃料指数」は、各都市の対象物件を同研究所の不動産鑑定士が継続的に評価して指数化したものです。第26回調査(2026年4月現在、2026年5月29日公表)によれば、東京のマンション価格指数は113.9でした。基準は2020年10月を100.0とした値ですから、円建てでは5年半で13.9%上昇したことになります。

ドル建てに直すと、25%の下落になる

ここに為替を重ねます。指数113.9に、104.35円を159.40円で割った係数0.6546を掛けると74.6。基準の100.0を25.4%下回ります。

基準2020年10月2026年4月変化
円建て指数100.0113.913.9%上昇
為替(円/ドル)104.35円159.40円円が34.5%下落
ドル建て指数100.074.625.4%下落

同じ資産について、円で測れば上昇、ドルで測れば下落。矛盾ではありません。測る物差しが違うだけです。「東京のマンションは高くなった」と嘆く国内の実需層と、「東京はまだ安い」と語る海外の買主が、同じ市場を見ながら噛み合わない理由がここにあります。

円建てでいくら上がれば、ドル建てで元に戻るのか

逆算すると、構造はいっそうはっきりします。2020年10月に2億円だった住戸が、159.40円の為替水準のもとでドル建ての金額を取り戻すには、円建ての価格がいくらになればよいか。

円建て価格ドル建て価格2020年10月比
2億円約125万ドル34.5%減
2億4,000万円約151万ドル21.4%減
2億6,000万円約163万ドル14.9%減
3億550万円約192万ドル±0

円建てで約53%上がって、ようやくドル建てで横ばいです。都心の一部の住戸ではこの水準の上昇が現実に起きていますが、それでも海外の買主にとっては「値上がりした」のではなく「やっと元に戻った」という感覚にとどまります。

国際比較でも、東京は上位ではない

水準の比較でも同じ傾向が確認できます。前掲の第26回調査では、東京・港区元麻布のハイエンドクラスのマンションの分譲単価を100.0としたとき、香港が261.6、ロンドンが219.5、ニューヨークが166.0という値が示されています。この比較指数は、各都市で現地通貨により評価した価格を、価格時点の為替で円換算して指数化したものです。したがって、円安が進むほど海外都市の指数は大きく出ます。「東京の高級住宅は世界の主要都市のなかでは突出して高くない」という一般的な理解は、この為替の効果を含んだうえでの話だという点は、押さえておく必要があります。

海外マネーが価格に効く3つの経路

では、円安による割安感は、実際にどれだけ都心の価格を押し上げたのでしょうか。経路を3つに分けて考えます。

経路1:海外居住者による直接取得

国土交通省は、不動産登記情報を用いて新築マンションの取得者の住所を集計した調査を公表しています(「不動産登記情報を活用した新築マンションの取引の調査結果」令和7年11月25日公表)。2025年1月から6月までに保存登記がなされた新築マンションのうち、国外に住所がある者による取得の割合は、東京23区で3.5%、千代田・中央・港・新宿・文京・渋谷の都心6区で7.5%でした。2024年はそれぞれ1.6%、3.2%ですから、1年で倍以上になった計算です。

倍増したというニュース性は大きい一方、水準としては、23区の約96.5%、都心6区でも約92.5%は国内に住所のある者による取得です。「海外勢が買い占めた」という説明は、この数字と整合しません。

経路2:価格は「最も高く評価した買主」が決める

ここが最も誤解されやすい論点です。取得割合が数%なら価格への影響も数%だろうと考えたくなりますが、市場価格はそのようには決まりません。

価格を決めるのは取引全体の平均ではなく、その物件を最も高く評価した買主です。供給が限られた住戸では、最後に競り合った買主の提示額がそのまま成約価格になります。分譲時に最上層階の数戸へ国内外から数十件の申込みが入る場面を想像してください。海外の買主が全体の1割に満たなくても、その1割が最上位の価格帯に集中していれば、成約価格は押し上げられます。

その成約価格は同じ建物の他の住戸の取引事例として参照され、近隣の類似マンションの評価の基礎にもなります。少数の取引が価格帯全体の「天井」をつくる構造です。

経路3:円安はコストと賃料にも効いている

三つめは、買主を経由しない経路です。鋼材、設備機器、エネルギーはいずれも輸入価格の影響を受けるため、円が下落すれば円建ての工事費は上がります。国土交通省の建設工事費デフレーターは、2015年度を100とする指数が建設総合で130を超える水準まで上昇しました。公共工事設計労務単価も2026年3月適用分で前年度比4.5%上昇し、14年連続の上昇です(国土交通省、2026年2月17日公表)。

建築費の上昇は新築の分譲価格に転嫁され、新築が上がれば代替として検討される中古の価格も引き上げられます。あわせて、訪日需要や外資系企業の駐在員需要は都心の賃貸市場を下支えし、賃料を通じて収益価格を押し上げます。前掲の第26回調査では、東京のマンション賃料指数も109.8と、2020年10月の水準を上回りました。

直接取得よりも、この経路3のほうが広く価格に効いていると私たちは見ています。円安は、海外の買主の財布を通じてだけでなく、原価と賃料という二つの回路から市場全体に染み込んでいます。

為替を「価格の前提」に置くことはできない

鑑定評価が求めるのは、円建ての正常価格

ご相談の場で、「今の円安を前提にした価格を出してほしい」「円高に戻ったときの価格も知りたい」と言われることがあります。前者は可能ですが、後者はできません。理由を申し上げます。

不動産鑑定評価基準が定める正常価格は、現実の社会経済情勢のもとで合理的と認められる条件を満たす市場において形成されるであろう市場価値です。価格時点(評価額を求める基準となる時点)における市場の状態を前提とする以上、その時点の為替水準は「与件」として市場価格のなかにすでに織り込まれています。鑑定士が別途、為替の係数を掛けて調整するものではありません。

逆に、「1ドル120円に戻った場合の価格」といった将来の為替を仮定した価格は、正常価格ではありません。価格の種類の違いは正常価格・限定価格・特定価格はどう違う?で整理していますが、こうした仮定を置いた数値は市場価値ではなく条件付きの試算です。ご事情によっては試算に意味がある場面もありますが、その場合でも正常価格とは明確に区別してご提示します。

円安が反転したときに何が起きるか

為替は一方向には動きません。2026年9月の米ドル対円相場(仲値)は、最も円高となった日で153円65銭、最も円安の日で158円01銭と、1か月のうちに4円を超える幅で振れました。

仮に円高が進めば、海外の買主から見た割安感は縮小します。ただし、それが直ちに円建て価格の下落を意味するわけではありません。経路1の寄与が数%にとどまる一方、経路3の建築費は、為替が戻っても人件費の上昇分までは戻らないという性質を持っているからです。また、円高は通常、日本の金利上昇とともに進みます。金利が価格に効く経路については金利が1%上がると都心のマンション価格はいくら下がる?で試算を示しました。為替単独ではなく、金利と合わせて見る必要があります。

私たち鑑定士は、将来の価格を予測する立場にはありません。できるのは、価格時点の市場を取引事例と収益の両面から検証し、その根拠を示すことです。

実務で数字の根拠が必要になる場面

為替が動く局面では、価格の裏づけを求められる場面が同時に増えます。海外に居住する所有者が日本の住戸を売却または相続する。海外法人が保有する住戸を関係会社へ移転する。円建てと外貨建ての資産を併せ持つご家庭で、財産分与の対象額を確定する。いずれも、相場観ではなく円建ての客観的な価格が出発点になります。

なお、海外にお住まいの方が日本の不動産を売却される場合には、譲渡代金から源泉徴収が行われる取扱いがあります。この点は海外在住のままタワーマンションを売ると手取りはどうなる?で整理しました。具体的な課税関係や申告手続は税理士に、契約や相続の法律関係は弁護士にご確認ください。私たちがお示しできるのは、価格の水準とその根拠です。

まとめ

円安は、都心の高級マンション価格に確かに効いています。ただし、その主たる経路は「海外勢の爆買い」ではなく、建築費と賃料という市場全体に及ぶ回路でした。そして、円建てで測るか外貨で測るかによって、同じ資産の姿はここまで変わります。

要点を振り返ります。

  • 米ドル対円相場の仲値月間平均は2020年10月の104.35円から2026年4月の159.40円へ動き、円は約34.5%下落した
  • 東京のマンション価格指数は同じ期間に円建てで13.9%上昇したが、ドル建てに直すと25.4%の下落になる
  • 2020年10月に2億円だった住戸がドル建てで元の金額に戻るには、円建てで約53%の上昇、3億550万円が必要になる
  • 国外に住所がある者による新築マンション取得は、2025年上半期で東京23区3.5%、都心6区7.5%。倍増したが水準としては限定的
  • 価格は取引の平均ではなく最も高く評価した買主が決めるため、数%の取得割合でも上位価格帯には影響が及ぶ
  • 円安は建築費と賃料を通じても市場全体に効いており、こちらの経路のほうが広く価格に作用している
  • 鑑定評価は価格時点の為替を与件として円建ての正常価格を求めるもので、将来の為替を仮定した数値は正常価格ではない

為替の動きを受けてご自宅や保有資産の現在の価値を確かめておきたい所有者様、海外に居住される顧客の資産評価を扱われる税理士・弁護士の先生方にとって、必要なのは為替の見通しではなく、価格時点における円建ての客観的な根拠です。私たちがお示しするのは、取引事例と収益の双方から検証した水準と、その導出過程です。

都心の高級マンション・タワーマンションの評価をご検討の方は、初回無料相談をご利用ください。海外にお住まいの方、海外法人が保有される住戸についても、オンラインでのご相談に対応しております。

REFERENCES

  1. 日本不動産研究所: 第26回 国際不動産価格賃料指数(2026年4月現在)
  2. 国土交通省: 不動産登記情報を活用した新築マンションの取引の調査結果(令和7年11月25日)
  3. 不動産経済研究所: 首都圏 新築分譲マンション市場動向 2025年のまとめ
  4. 七十七銀行: 米ドル対円相場(仲値)一覧表

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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