相続で共有になったタワマンはどう解消する?― 持分の価値は割合どおりではありません
相続で兄弟の共有になったマンションは、時間が経つほど解きにくくなります。共有持分の市場価値が全体価格×持分割合にならない理由、現物分割・賠償分割・換価分割の使い分け、相続開始から10年の区切り、正常価格と限定価格の違いを不動産鑑定士が整理します。

「実家のマンションは、とりあえず兄弟3人の共有にしておきました」。相続のご相談で、こうしたご説明を伺うことがあります。分け方が決まらない、売るかどうかも決まらない。それなら法定相続分どおりの共有にしておけば公平だ、というご判断です。
その選択は、手続としては確かに最も簡単です。ところが数年後、誰かが「自分の持分だけでも現金化したい」と言い出したとき、あるいは次の相続が起きたとき、共有は一転して最も解きにくい状態に変わります。そして多くの方が驚かれるのが、共有持分の市場価値は、マンション全体の価格に持分割合を掛けた金額にはならないという事実です。
本記事では、都心の高級マンション・タワーマンションを念頭に、共有がなぜ厄介なのか、持分の価値が割合どおりにならないのはなぜか、そして共有を解消する3つの方法それぞれで必要になる「価格」が何なのかを、私たち鑑定士が依頼を受けたときに整理する順序に沿ってご説明します。
共有のマンションは、放置するほど解きにくくなる
持分だけでは「使う」ことも「貸す」こともできない
民法は、共有物の利用について段階的なルールを置いています。共有物に変更(その形状または効用の著しい変更を伴うもの)を加えるには共有者全員の同意が必要で(民法第251条第1項)、管理に関する事項は各共有者の持分の価格の過半数で決まります(民法第252条第1項)。賃貸についても、管理行為として決められるのは、建物であれば3年を超えない賃借権の設定までです(民法第252条第4項)。
つまり3分の1の持分を持っていても、単独でリフォームすることも、賃貸に出すことも、まして住戸そのものを売却することもできません。持分自体は他の共有者の同意なく処分できますが、「タワーマンション1住戸の3分の1」という商品を買いたい第三者は、ほとんどいないのです。
時間が経つほど共有者が増える
もう一つの問題は、共有が自然には解消しないことです。共有者の一人が亡くなれば、その持分はさらにその相続人へ分かれていきます。兄弟3人の共有は、次の世代では6人にも7人にもなり得ます。
国土交通省「令和5年度マンション総合調査」(令和6年6月公表)によれば、世帯主が70歳以上の区分所有者の割合は25.9%で、前回調査から3.7ポイント上昇しました。昭和59年以前に建設されたマンションでは55.9%と半数を超えています。相続の発生は今後さらに増え、共有が積み重なる構造は強まります。
「いつか話し合えばよい」と考えているうちに、話し合うべき相手が増える。これが共有の最も厄介な性質です。
共有持分の価値は、全体価格×持分割合ではない
相続税の評価は按分、市場での評価は違う
まず整理しておきたいのは、税務上の評価と市場価値は別物だということです。財産評価基本通達2は、共有財産の持分の価額について、その財産の価額を共有者の持分に応じてあん分した価額によって評価すると定めています。相続税の申告では、共有であること自体による減価は原則として考慮されません。
一方、市場はそのようには動きません。単独では使えず、貸せず、売るにも他の共有者との交渉が要る資産を、割合どおりの価格で買う第三者はいないからです。
共有減価はなぜ生じるのか
不動産鑑定の実務では、この差を共有減価と呼びます。減価の根拠は大きく三つあります。第一に、利用や管理を自分の意思だけで決められないこと。第二に、処分に時間がかかり、他の共有者との交渉や訴訟を要する場合があること。第三に、買い手が限られ、流通市場が極めて薄いことです。
減価の程度は案件によって幅があります。持分割合が過半数に達しているか、他の共有者との関係が良好か、対象が居住用か収益物件か、共有者が何人いるか。関係が悪化して分割訴訟が見込まれる場合には減価は大きくなり、すでに買い手が特定され交渉がまとまりつつある場合には小さくなります。一律の掛け目で片づけられる論点ではありません。
想定されるケース ― 1億8,000万円の住戸を3分の1ずつ
都心のタワーマンション1住戸を、相続人である長男・二男・長女が3分の1ずつ共有しているケースを想定します。全体の時価を1億8,000万円、相続税評価額(区分所有補正後)を1億800万円、共有減価を30%と仮に置いて、一人あたりの金額を並べてみます。
| 場面 | 価格の考え方 | 一人あたり金額 |
|---|---|---|
| 相続税の課税価格 | 全体の相続税評価額を持分で按分 | 3,600万円 |
| 持分だけを第三者へ売却 | 全体時価×1/3×共有減価 | 4,200万円 |
| 他の共有者が持分を買い取る | 全体時価×1/3(共有減価なし) | 6,000万円 |
| 全体を売却して代金を3等分 | 全体時価÷3(諸費用控除前) | 6,000万円 |
数値はいずれも説明のための仮置きです。ここで見ていただきたいのは金額そのものではなく、同じ3分の1でも場面によって1,800万円の開きが生まれるという構造のほうです。持分を単独で第三者に売ることは、多くの場合いちばん損の大きい選択になります。断言します。
区分所有補正率の仕組みについては区分所有補正率の計算方法で整理しています。なお、相続税評価額の算定や申告上の取り扱いは税理士にご確認ください。
共有を解消する3つの方法と、必要になる価格
令和3年改正民法(令和5年4月1日施行)は、裁判による共有物分割の方法を条文上はっきりさせました。現物分割(民法第258条第2項第1号)、賠償分割(同項第2号)、そして前二者によることができないとき等の競売分割(同条第3項)の三つです。
現物分割 ― マンションではほぼ使えない
土地であれば境界線を引いて分けられますが、マンションの一住戸を物理的に分けることはできません。複数の住戸を相続していれば住戸ごとに分ける現物分割も考えられますが、一住戸を共有している場合、この選択肢は事実上ありません。
賠償分割 ― 要件そのものが「価格が適正に評価され」
実務で中心になるのは賠償分割です。共有者の一人が住戸全体を取得し、他の共有者にはその持分に相当する金銭を支払います。
この方法は条文化される前から判例で認められてきました。最高裁判所平成8年10月31日判決は、当該共有物を特定の共有者に取得させるのが相当であり、かつその価格が適正に評価され、取得する者に支払能力があって、他の共有者に持分の価格を取得させても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情があるときに、全面的価格賠償による分割ができるとしました。
注目していただきたいのは「その価格が適正に評価され」という一句です。賠償分割は、価格が争われている限り成立しません。だからこそ、中立な第三者による評価が、この手続では要件そのものとして機能します。代償金の決め方については代償分割の代償金は相続税評価額で決めてよい?もあわせてご覧ください。
換価分割・競売分割 ― 誰も取得を望まない場合
誰も取得を望まない、あるいは取得希望者に支払能力がない場合は、売却して代金を分けることになります。共有者の協議で市場に売り出すのが換価分割、裁判所の手続で売却するのが競売分割です。
同じ「売る」でも結果は違います。競売では買受人が内覧や引渡しの面でリスクを負うため、評価にも競売市場の特性を踏まえた減価が織り込まれ、落札価格は通常の成約価格を下回りやすい傾向にあります。一般市場で買い手が見込める高級マンションほど、競売に至る前に協議で売却する実益は大きいと言えます。
遺産共有のまま10年が過ぎると何が変わるか
遺産分割と共有物分割は別の手続
見落とされがちな点として、相続で生じた共有(遺産共有)と、売買などで生じた通常の共有とでは、解消の手続が異なります。遺産共有の解消は家庭裁判所の遺産分割手続によるのに対し、通常共有の解消は地方裁判所等の共有物分割訴訟によります。相続人の一人が持分を第三者に譲渡すれば、一つの住戸に両者が併存するいっそう複雑な状態も生まれます。
令和5年施行の改正が設けた10年の区切り
令和3年改正民法は、ここに新しい規律を入れました。民法第258条の2第2項は、共有物に遺産共有持分と通常共有持分が併存する場合において、相続開始の時から10年を経過したときは、遺産共有持分についても共有物分割訴訟で解消できると定めています(相続人が異議の申出をしたときを除きます)。
背景にあるのが民法第904条の3です。相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割では、原則として特別受益や寄与分を考慮した具体的相続分ではなく、法定相続分等によることとされました。生前贈与や介護の貢献を分割に反映させたいのであれば、10年という期限があるということです。
「そのうち話し合えばよい」と先送りした結果、主張できたはずの事情が主張できなくなる。これらの規定の適用や手続の選択は法律判断ですので、必ず弁護士にご確認ください。
鑑定評価では共有持分をどう扱うか
誰が買うかで、求める価格の種類が変わる
不動産鑑定評価基準は、求める価格を依頼目的に応じて種類分けします。持分を第三者に売却する前提であれば、共有減価を織り込んだ正常価格(市場性を有する不動産について、合理的な市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格)を求めます。
他の共有者が買い取る場合は話が変わります。買い取りによって単独所有となり、利用も処分も自由になる。つまりその買い手にとってだけ特別な価値が生まれます。この場合は限定価格(不動産の併合または分割等に基づき、市場が相対的に限定される場合における取得部分の市場価値を適正に表示する価格)を求めるのが基準の考え方であり、共有持分の買い取りは限定価格が成立する典型的な場面の一つとされています。
同じ3分の1の持分でも、誰が買うかによって求めるべき価格の種類が違う。ここを取り違えたまま金額だけを比べても、議論はかみ合いません。
価格時点と資料を先に固める
評価にあたっては、価格時点(価格判定の基準日)を明示します。遺産分割では一般に分割時、遺留分侵害額の算定では相続開始時が基準とされますが、この時点の設定も法律判断を伴いますので、弁護士と共有したうえで確定します。
資料としては、登記事項証明書(持分割合と抵当権の確認)、管理規約、重要事項調査報告書、長期修繕計画、そして共有者間の使用状況を確認します。共有者の一人が無償で住み続けている場合、その事実は分割方法の相当性の判断にも、共有者間の金銭の精算にも関わってきます。
調停や訴訟で使う可能性があるなら、価格等調査報告書ではなく鑑定評価書を選ぶのが安全です。裁判所での使われ方は鑑定評価書は裁判の証拠になるかで整理しています。
まとめ
相続で共有になったマンションは、時間が経つほど共有者が増え、解きにくくなります。そして共有持分の市場価値は、全体価格に持分割合を掛けた金額にはなりません。解消の方法は現物分割・賠償分割・換価(競売)分割の三つですが、いずれを選ぶにも出発点は「適正に評価された価格」です。
要点を振り返ります。
- 共有物の変更には全員の同意、管理には持分の価格の過半数が必要で、持分だけでは使うことも貸すこともできない(民法第251条・第252条)
- 相続税の申告では持分に応じたあん分で評価するが(財産評価基本通達2)、市場では単独で使えない資産として共有減価が生じる
- 減価の程度は持分割合・共有者の関係・物件の性格によって幅があり、一律の掛け目では決まらない
- 賠償分割は「その価格が適正に評価され」ることが要件(最高裁判所平成8年10月31日判決、民法第258条第2項第2号)
- 相続開始から10年を経過すると遺産共有持分も共有物分割訴訟で解消し得る一方、具体的相続分による分割は原則として求められなくなる(民法第258条の2第2項、第904条の3)
- 第三者への売却なら正常価格、他の共有者による買い取りなら限定価格と、依頼目的によって求める価格の種類が変わる
すでに共有になっているマンションを抱えておられる相続人の方、これから遺産分割の方針を決める段階にある方、そして共有物分割事件を担当されている弁護士の先生にとって必要なのは、「共有は損だ」という漠然とした感覚ではなく、どの場面の、どの種類の価格を、いくらと見るのかという具体的な整理です。
都心の高級マンション・タワーマンションの評価をご検討の方は、初回無料相談をご利用ください。共有の状況と解消の方針を伺ったうえで、求めるべき価格の種類と、鑑定評価書・価格等調査報告書のどちらが適しているかをご案内します。
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
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