鑑定の方法論

定期借地権付きタワマンの価格はなぜ直線的に下がらないのか ― 残存期間別の逓減カーブ

定期借地権付きタワーマンションの価値は、残存期間に比例して直線的には減りません。複利年金現価率に沿った逓減カーブ、借地期間による建物価値の頭打ち、地代と解体準備金の負担、そして令和6年からの区分所有補正率との関係を、残存期間別の試算とともに鑑定士が解説します。

著者:吉田 健人·読了 約14
定期借地権付きタワマンの価格はなぜ直線的に下がらないのか ― 残存期間別の逓減カーブ

定期借地権付きのタワーマンションについて、「あと何年で価値がなくなるのか」というご質問をいただくことがあります。借地期間70年のうち30年が過ぎたなら、価値も残り4割ほどではないか。そう考えるのは自然なことです。

しかし、その直感は当たりません。定期借地権の価値は残存期間に比例して減るのではなく、前半はゆるやかに、後半は急激に落ちます。しかも建物の減価と地代負担が同じ方向に働くため、住戸価格全体の下落は借地権単体よりさらに急になります。

本記事では、その価値がどのような曲線を描いて目減りするのかを、私たち鑑定士が用いる考え方に沿って分解します。残存期間別の試算から、令和6年から適用されている区分所有補正率との関係まで、判断材料を整理します。

定期借地権付きタワーマンションという選択肢

借地借家法第22条が定める一般定期借地権

マンションの敷地に設定される定期借地権は、その多くが借地借家法(平成3年法律第90号)第22条の一般定期借地権です。同条は、存続期間を50年以上として借地権を設定する場合に、契約の更新がないこと、建物の築造による存続期間の延長がないこと、期間満了時に建物の買取りを請求しないことを定められる旨を規定しています。

普通借地権なら正当事由がない限り更新され、建物買取請求権も残ります。一般定期借地権にはそれがありません。期間が来れば建物を解体し、更地にして返す。この一点が、価値の減り方を決定づけます。

市場は薄く、分譲時の価格差は2割前後

不動産経済研究所の集計をもとにした長谷工総合研究所の分析(2024年7月公表)によれば、2023年の定期借地権マンションの供給は全国で115件1,257戸、同年の所有権マンションの供給6万5,075戸に対しておよそ1.9%にとどまります。同分析では、首都圏で2022年以降に供給開始した物件を2024年4月末時点で比較すると、同程度の専有面積の所有権マンションに対し平均価格は8割程度とされています。

分譲時点の差は2割前後。問題は、この差が時間とともにどう開いていくかです。市場が薄く、売却時に同条件の成約事例を見つけにくい点も、この類型の難しさです。

価値は「残存期間に比例」しては下がらない

逓減カーブは複利年金現価率の形をしている

定期借地権の経済的な中身は、「残存期間のあいだ、その土地を使える権利」です。将来の各年の利益を現在価値に割り引いて合計すると考えれば、その価値は複利年金現価率(一定期間にわたり毎年発生する金額の現在価値を求める係数)に比例します。割引率3%、設定時70年を100とした価値指数は次のとおりです。

残存期間複利年金現価率価値指数直前10年間の下落幅
70年29.12100
50年25.7388△7
40年23.1179△9
30年19.6067△12
20年14.8851△16
10年8.5329△22

最初の10年で失われるのは5ポイント、最後の10年では22ポイントです。下落ペースは4倍以上に加速します。遠い将来の利益は割り引かれて現在価値が小さいため、期間の後ろ側が削られてもさほど痛くありません。逆に、目前の利益が削られる終盤は、そのまま価値の目減りになります。

相続税の世界でも発想は同じです。財産評価基本通達27-2は、定期借地権等の価額を、課税時期において借地権者に帰属する経済的利益とその存続期間を基として評定すると定め、簡便法では設定期間と残存期間それぞれの複利年金現価率の比を用います。

建物価値の「頭打ち」は借地期間で決まる

住戸の価格は、敷地利用権(区分所有者が敷地に対して持つ権利。定期借地権付きマンションではこれが定期借地権になります)の価値と建物の価値の合計です。そして建物は、期間満了時に必ず解体されます。

ここで期間設定の違いが効きます。鉄筋コンクリート造の超高層マンションの経済的な残存耐用年数を仮に60年程度と置くと、借地期間70年の物件では建物の寿命が先に来るため、借地期間は建物価値の制約になりません。一方、借地期間50年の物件では常に借地期間のほうが短い。築10年での残存期間は40年ですが、同じ築10年の所有権マンションなら建物には50年の経済的寿命が残っています。50年型の定期借地権では、分譲初日から建物価値が期間で頭打ちになっているのです。同じ「定借」でも、50年型と70年型では価値の減り方が質的に違います。

想定されるケース ― 借地期間50年のタワーマンション住戸

借地期間50年の一般定期借地権が設定された都心のタワーマンションで、専有面積80平方メートルの住戸を想定します。同等の所有権マンションなら土地持分9,000万円・建物6,000万円の計1億5,000万円と見込まれる住戸とし、地代と解体準備金の合計を年48万円、割引率は土地3%・負担4%と置きます。市場全体の価格変動は捨象した理論値です。

経過年数(残存期間)敷地利用権建物合計(負担控除後)
0年(残存50年)6,950万円5,000万円1億920万円
10年(残存40年)6,240万円4,000万円9,290万円
20年(残存30年)5,290万円3,000万円7,460万円
30年(残存20年)4,020万円2,000万円5,370万円
40年(残存10年)2,300万円1,000万円2,910万円

10年ごとの下落率は、最初の10年が約15%、次が約20%、その次が約28%、最後は約46%です。建物の減価と借地権の逓減が同時に進むため、加速の度合いは借地権単体より大きくなります。所有権との差も、分譲時は約27%ですが、築20年で約43%、築30年で約55%に広がります。分譲時に2割安く買えたという差は、保有を続けるかぎり縮まりません。

地代・解体準備金・融資期間という三つの圧力

賃料は同じでも、手元に残る額が違う

定期借地権付きマンションの所有者は、管理費・修繕積立金に加えて、地主への地代と、期間満了時の解体費用に充てる解体準備金を毎月負担します。地代は2年から3年ごとに見直される契約が一般的です。

収益面で重要なのは、この住戸を賃貸に出したとき、借主が支払う賃料は所有権マンションと変わらないという点です。借主にとって、敷地が所有権か定期借地権かは居住の快適さに影響しません。賃料収入が同じで費用だけが増えるのですから、収益還元法でいう純収益は、地代と解体準備金の分だけそのまま減ります。

負担の現在価値は1,000万円規模になる

年48万円の負担を、残存期間にわたる有期の支出として割引率4%で現在価値に直すと次のようになります。

残存期間複利年金現価率負担の現在価値1億2,000万円に対する比率
50年21.481,031万円8.6%
40年19.79950万円7.9%
30年17.29830万円6.9%
20年13.59652万円5.4%

住戸価格の6%から9%に相当します。比較検討の際は月々の支払額ではなく、この現在価値ベースの金額を頭に置いてください。

融資期間の制約が買い手を絞る

住宅金融支援機構のフラット35は、敷地が借地の場合、通常の借入期間と借地権の残存期間を比べて短いほうが上限になると定めています。民間金融機関も、返済完了時点で借地権が存続していることを前提に審査します。残存期間が35年を下回れば35年ローンは組めず、残存25年なら返済期間は25年以内で毎月の返済額が跳ね上がります。買える人が減れば価格は下がる。逓減カーブが終盤で急になるのは、割引計算だけでなく、この買い手層の縮小が重なるからです。

相続税評価では区分所有補正率も重なる

定期借地権付きでも補正率の適用がある

見落とされやすい論点です。国税庁「居住用の区分所有財産の評価について」(令和5年9月28日付課評2-74。令和6年1月1日以後に取得した財産に適用)が導入した区分所有補正率は、定期借地権付きマンションにも及びます。

同通達に関する国税庁のQ&A(令和6年5月公表)は、二つの扱いを分けて示しています。地主側の底地(貸宅地)の評価には本通達の適用がなく、従来どおりの計算になります。これに対し、一室の区分所有権等に係る敷地利用権が借地権である場合、その借地権の評価は、本通達を適用した「みなされた自用地としての価額」に借地権割合を乗じて計算します。定期借地権であれば、このみなし価額を基礎として財産評価基本通達27-2を適用することになります。補正率で引き上げられた土地評価額の上に残存期間による逓減が乗る、という二段構えです。補正率の計算方法そのものは区分所有補正率の計算方法で解説しています。

想定されるケース ― 補正率は2倍を超えることがある

築10年・地上45階建て・所在階30階・専有面積80平方メートル・敷地利用権の面積8平方メートルの住戸を想定します。評価乖離率は、築年数による調整が△0.330、総階数指数による調整が0.239、所在階による調整が0.540、敷地持分狭小度による調整が△0.119で、これに3.220を加えて3.550となります。評価水準は約0.282で0.6を下回りますから、区分所有補正率は3.550に0.6を乗じた2.13です。

自用地としての価額が2倍を超える水準にみなされ、その上で定期借地権としての逓減が働く。残存期間が長いほど逓減は小さいのですから、築浅の定期借地権付きタワーでは、相続税評価額が実勢価格に対して割高になる可能性があります。

評価方法が実態に合わないときの逃げ道

評価乖離率の算式は、所有権マンションの取引実態をもとに組み立てられたものです。価値が期間とともに確実に減る定期借地権にそのまま当てはめてよいのか。実務上、ここは論点になり得ます。

先ほどのQ&Aはこの点にも触れており、マンションの市場価格の大幅な下落その他本通達の定める評価方法に反映されない事情があり、通達の評価方法によることが適当でないと認められる場合には、個別に課税時期における時価を鑑定評価その他合理的な方法により算定することができる、と明記しています。令和4年最高裁判決以降の考え方は令和4年最高裁判決が変えた相続税評価の常識で整理しましたが、鑑定評価が納税者側の主張を支える場面は、定期借地権付き住戸でも想定されます。ただし具体的な申告方針は個別性が高いため、必ず税理士にご確認ください。

まとめ

定期借地権付きタワーマンションの価値は、残存期間に比例して直線的に減るのではありません。複利年金現価率の形に沿って、前半はゆるやかに、後半は急激に落ちます。そこに建物の減価と地代・解体準備金の負担、融資期間の制約が重なり、住戸価格全体の下落は借地権単体よりさらに急になります。

要点を振り返ります。

  • 一般定期借地権(借地借家法第22条)は更新も建物買取請求もなく、期間満了時は更地返還となるため、価値は期間の経過とともに確実に逓減する
  • 割引率3%で設定時70年を100とすると、最初の10年の下落は5ポイント、最後の10年では22ポイントと、下落ペースは4倍以上に加速する
  • 借地期間50年の物件は建物の経済的耐用年数より期間が短く、分譲初日から建物価値が頭打ちになる。70年型ではこの制約は生じにくい
  • 地代と解体準備金は純収益をそのまま削り、現在価値では住戸価格の6%から9%に相当する規模になる
  • フラット35は借地権の残存期間を借入期間の上限とするため、残存35年を切ると買い手層が縮小し、価格下落を加速させる
  • 令和6年からの区分所有補正率は定期借地権付き住戸の敷地利用権にも及び、通達による評価が実態に合わない場合は鑑定評価による時価算定の余地がある

購入を検討されている方、すでに所有していて売却の時期を見極めたい方、相続財産として引き継ぐ見込みのある方にとって必要なのは、「いつかゼロになる」という漠然とした不安ではなく、契約条件に基づいた現時点の価値水準の把握です。

都心の高級マンション・タワーマンションの評価をご検討の方は、初回無料相談をご利用ください。借地契約の内容を読み込んだうえで、残存期間と地代負担を織り込んだ現在の価値水準と、鑑定評価書・価格等調査報告書のどちらが目的に適しているかをご案内します。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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